文春オンライン

「日の丸半導体を復活させる」「世界に10年遅れたのは私たちの世代の責任だ」半導体のキーマンが直接対決

note

 ——初めて東さんにインタビューしたときに「泉谷くん、台湾攻めだよ」と言って、当時は、まだ無名だったTSMCを早くも意識されていたのを思い出します。

 黒田 私などは、日本が衰退した理由の一つに、エンジニアが自由な精神を失ってしまったことがあると思っています。

 日本人はどんどん細分化する仕事でも一生懸命に取り組む。一人一人が本当に細かくてローカルな作業でも、10年、20年と続ける事態が平気で起こるわけです。私が東芝に入社した頃は、多くても100個ほどのトランジスタを集積したチップを扱っていたので、1人でも全体を見渡すことができました。ただ、今は何桁も集積度の高いチップを扱うので、どうしても仕事が細分化してしまう。

ADVERTISEMENT

 もう一つ、今、日本国内で新しく半導体チップを開発しようとすると、一口500億円ほどの投資を集め、さらに100人、200人の精鋭部隊によって1、2年がかりで取り組むことになる。これで「まずやってみよう」というチャレンジ精神が出てこなくなった。半導体は海外から買って使うのが当たり前と、割り切って考えているうちに、イノベーションが生まれにくくなってしまいました。

黒田忠広氏 ©文藝春秋

 東 以前、黒田先生とスタンフォード大学の量子コンピューターをやっている研究室に行き、システムXと呼ばれる研究開発体制について、リーダーの先生に話を聞いたことがあります。半導体のエンジニアや研究者たちが集まって「ああでもない」「こうでもない」と自由にブレインストーミングしていた。それが開発の母体となり、事業の継続性を生むわけです。日本にはそういう文化が足りないですね。

ラピダス設立の舞台裏

 ——正直に言って、もはや日本は退路を断って、起死回生の逆転を狙うしかない。そこで昨年8月に少人数で会社を設立し、その後、トヨタやNTTなど、日本の主要企業8社による合同出資で立ち上がったのが、新会社「ラピダス」ですね。

 2027年を目途に、世界最小の2ナノメートル(ナノは10億分の1)という超先端半導体の量産化を掲げていて、まさに国家プロジェクト。ただ、私はこの話を聞いて「またオールジャパンで大丈夫か」と思ってしまったのですが。

泉谷渉氏 ©文藝春秋

 東 きっかけは、4年前の2019年にIBMの当時CTOだったジョン・ケリーから電話で「2ナノメートルのロジック(半導体内部でデジタルデータの演算・処理を行う機能)の開発が完了した。技術提供をするから、日本で製造しないか」と持ち掛けられたことでした。

 その瞬間に「日本がやらなければ他の国がやるだろう。これはラストチャンスだ」と思ったんです。ただ、そのIBMのロジックが使い物になるかどうかが問題。そこで小池淳義さん(ラピダス現社長)に検討してもらった。経産省や、半導体戦略推進議員連盟会長の甘利明さんにも相談しました。最終的にいけると見通しが立ったから、このプロジェクトが動き出したわけです。

(本稿は23年6月20日に「文藝春秋 電子版」が配信したオンライン番組をもとに記事化したものです。司会 泉谷渉・産業タイムズ社会長)

東哲郎氏と黒田忠広氏の「日の丸半導体を復活させる」全文は、「文藝春秋」2023年8月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

「日の丸半導体を復活させる」「世界に10年遅れたのは私たちの世代の責任だ」半導体のキーマンが直接対決

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文藝春秋をフォロー