現役時代は重賞1賞、引退するまでに16連敗……そんな成績の馬がなぜ種牡馬入りを果たしたのか? 名馬「ブラックタイド」のユニークな馬生(ばせい)を、競馬ライター・小川隆行氏と競馬サイト・ウマフリの新刊『キタサンブラック伝説』より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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ディープインパクトの兄・ブラックタイド
現役時の実績だけで比較すれば、偉大な弟には遠く及ばない。それでも、見栄えする雄大な馬体は、弟のそれを上回るといっても過言ではない。
母ウインドインハーヘアは、アラジの仔を受胎したままドイツのGIアラルポカルを勝利した名牝。日本に輸入後サンデーサイレンスが交配され、2001年に生を受けたのがブラックタイドである。
さらにその3ヶ月半後には、後に弟のディープインパクトも所有することになる金子真人氏が、セレクトセール当歳市場において1億185万円で落札。これは、ディープインパクトよりも3000万円近く高い価格だった。
そんな背景もあってか、新馬戦でスウィフトカレントに付けられていた絶望的な差を驚異の末脚で逆転したときは、多くのファンがこの漆黒の馬体に夢を抱いた。
その後は、一進一退の成績が続くも、5戦目のスプリングSで再び豪脚一閃。直線でライバルたちをごぼう抜きし初タイトルを獲得すると、クラシックの番付も一気に上昇。この時点では、騎手が同じ勝負服を身に纏うキングカメハメハよりも上に位置していたと言える。
ところが、出負けした皐月賞で後方のまま見せ場なく16着に大敗すると、その後、屈腱炎を発症。2年3ヶ月という長期休養の後に復帰したものの、そこから16戦して勝利なしに終わり、2008年の目黒記念8着を最後に、現役生活に別れを告げたのである。