「今まで乗ってきた名馬の中でも、キタサンブラックは非常に強かったです。強くなる名馬、というのが大きいですね。最初に乗った時と引退の時では全然レベルが違いました」
2015年~2017年に現役馬として活躍したキタサンブラックについて、主戦を務めた武豊ジョッキーにインタビュー(聞き手:緒方きしん)。乗っていて、嬉しく感じたという名馬との思い出とは? 競馬ライター・小川隆行氏と競馬サイト・ウマフリの新刊『キタサンブラック伝説』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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「能力の高そうな馬だなと感じていました」
元々キタサンブラックのレースぶりは近くで見ていたので、能力の高そうな馬だなと感じていました。ぼんやりとではありますが、その頃からいつかは乗せてもらいたいと思っていましたね。
コンビを組む前で印象に残っているレースと言えば、ダービー。積極的な競馬でしたし、最後はバテてしまったものの、見どころのある走りでした。これからどんどん良くなっていきそうな馬だな、と将来に希望を持てるレースだったと思います。
夏を越すと馬が見るからに逞しくなっていました。横から見ていても格好の良い、目を惹く馬でしたね。僕はキタサンブラックの父であるブラックタイドに乗っていたんですが、あの馬も薄めで背の高い、サンデーサイレンス産駒らしい格好の良い馬でした。同じ血統でもディープインパクトとは違うタイプの馬体と言えます。
そんな風に思っていた馬ですから、年明けに大阪杯の依頼が来た時は嬉しかったです。調教段階から乗り味の良い背中で「これは思っていた以上に良い馬だな」と驚きました。すでに菊花賞を勝っていましたが、まだまだ成長の余地を残していましたし、このまま成長していくとトップレベルに到達するだろうなという手応えもありました。
レースでは、今後の布石という意味でも、一旦は自分から進むような競馬をさせて能力を試してみました。最後はアンビシャスに捕まりましたが、悪くない一戦でした。
続く天皇賞(春)でもハナを奪う競馬となりましたが、あれは1枠1番という枠順や相手関係を見ての判断で、特に逃げにこだわったつもりはありません。あのレースも勝つには勝ちましたが、2着とはハナ差ですし、どちらかと言えば「もっと良くなってくれないと!」という感想でした。それほど、もっと良くなりそうな雰囲気を感じていたとも言えます。
宝塚記念で3着に敗れた際も、あのようなタフなレースになると最後は疲れてしまうようなところがまだ残っていましたから、「現時点だとこんなものだろうな」というのが正直な感想でした。