1ページ目から読む
3/4ページ目

「らしくなかった」2017年の宝塚記念

 5歳になると本当に強くなり高いレベルで安定していたキタサンブラックですが、レース前にいつもと雰囲気が違うなと思ったのが、その年の宝塚記念でした。いつもなら戦闘モードに入っている返し馬やゲート裏でもおとなしくて「どうしたんだろう、らしくないな」という感じがありました。ただ、結果が出るまでどちらに転ぶかわかりませんから「この落ち着きが、逆に良い方に出るかも」と思いながら走ってみたのですが、大敗でした。

 天皇賞(秋)では、戦闘モードに戻っていましたが、遂に出遅れてしまいます。かねてより心配していたところが出てしまったわけですが、いつでも出遅れる可能性のある馬なのでそのパターンの競馬は常にシミュレーションしていました。大雨の特殊な馬場でしたが、返し馬でも気にする素振りはなかったので、「あ、出遅れた」と思いつつ内側からの競馬を意識して乗りました。

 ジャパンCは、レース前にはそれなりに普通っぽい感じはしたんですが、レース結果を見る限り大雨の天皇賞(秋)の疲れが抜けきっていなかったのかな、とは感じています。有馬記念は厩舎の方で工夫して調整してくれていたので状態は良く、有終の美を飾ることが出来ました。もうこの頃には、良い状態で出たら勝てるような強さを身につけていましたね。

ADVERTISEMENT

 普段から黒岩悠くん、荻野極くんたちがよく調整してくれていたのも後押しになりました。二人とも騎手だから話しやすく、手厚くサポートしてくれました。5歳シーズンが一番強かったですし、現役を続けていたらもっと勝っていたとは思います。

 ディープインパクトのようなレースもできたと思っているからこそ、できればマイルのGI競走にも挑戦してみたかったという気持ちはあります。おそらく、中団後方からごぼう抜きにするような競馬がやれたはずです。きっとダートもいけたはずで、フェブラリーSでも圧勝できたんじゃないでしょうか。直線で追い込む姿がイメージできます。

 凱旋門賞も出走が叶っていたら楽しみだと思えるような馬でしたが、天皇賞(秋)→ジャパンC→有馬記念と続けて出てくるというのも素晴らしいことなので、挑戦ができなかったことが心残りというわけではありません。得意条件のわからない、良い意味で摑みどころのない馬でした。

 今まで乗ってきた名馬の中でも、キタサンブラックは非常に強かったです。強くなる名馬、というのが大きいですね。最初に乗った時と引退の時では全然レベルが違いました。