スタント、車の運転、飛行機の操縦も全部「自分でやる」
ペッグはまた、「観客を楽しませるためにどこまでもやるトムの姿勢には感心させられる」ともいう。スタントマンでなく本当にトム・クルーズがやっているとわかって見ると、観客はより映画に入り込む。クルーズはそれを知っているのだ。
だが、スタントを俳優が全部自分でこなすのは、今どき、実は稀なこと。もちろん、アクション映画やスーパーヒーロー映画に出演が決まったら、俳優は熱心にトレーニングをし、シェイプアップをして、スタントコーディネーターと一緒にファイトシーンの動きを練習する。しかし、危険なことはスタントダブルにやってもらうのが普通だ。それはもはやみんな知っていることで、恥ずかしいことではない。
マーベル映画に出演してきたエリザベス・オルセンは、自分でスタントをやった時のことを振り返り、「みんなの時間を無駄にしただけだった。スタントダブルと呼ばれる人たちは、ちゃんと理由があってそこにいるのよ」と語っている。
だが、クルーズは、スタントも、車の運転も、そして飛行機の操縦まで自分でやる。「トップガン」1作目の前に飛行機操縦のライセンスを取得している彼は、ジェニファー・コネリーと一緒に空に飛び立つ「トップガン マーヴェリック」のラストシーンで、実際に操縦した。あのP-51マスタングという飛行機がクルーズの私物だというのも、さすが桁違いのセレブだ。
車の運転も、とびきりうまいらしい。「ワイルド・スピード」シリーズの故ポール・ウォーカーも車が大好きだったが、続編の規模が大きくなっていくうちに、保険の問題などもあって、最初の頃のように全部自分で運転をさせてもらうことはできなくなったと語っていた。
しかし、来年公開予定の「デッドレコニングPART TWO」を含めて「ミッション~」シリーズを4本監督したクリストファー・マッカリーによれば、クルーズは顔が見えないシーンでも自分で運転している。「リハーサルの時には別の人に運転してもらうことがあるが、それを見ていてもトムじゃないとわかるんだよ。運転する人が変わると、車の動きも変わる。トムはそういうのをすごく気にするんだ」と、マッカリー。
アクションに限らず、たとえば携帯を持っている手のアップや、靴のクローズアップなども、クルーズは必ず自分でやるという。そこにも、最高の映画を作るという彼の徹底したこだわりが見える。
プロデューサーとしてのトム・クルーズ
クルーズと仕事をしたことがある人たちは、口を揃えて、彼がいかにプロフェッショナルでポジティブかを語る。共演者はもちろん、コーヒーを作る人にも親切だと評判だ。
「デッドレコニングPART ONE」で再びホワイト・ウィドウを演じるヴァネッサ・カービーは、「どんな仕事をしている人のことも、トムは応援するの。みんなに最高の仕事をしてもらいたいと思っているのよ。それは私たちをすごく元気づけてくれる。こんな超大作に出たことがない私は最初緊張していたけれど、彼は私を信じてくれて、ずっと支えてくれた。とても嬉しかった」と、クルーズとの仕事を振り返る。
マッカリーも、「どんなにきつい日も、真ん中にいる人がポジティブだから、良い雰囲気が生まれるんだ。僕が自信を感じられないでいる時も、彼は『大丈夫』と言ってくれる」と優れたパートナーに感謝する。クルーズは、自分だけでなく、全員に光ってもらい、どこを見ても良い作品にしたいのだ。だから彼が作る映画は面白いのである。