岸田内閣が次々と繰り出す増税路線で、今サラリーマンたちの間でちょっとした騒ぎになっているのが退職金に対する課税強化の動きだ。

 サラリーマンが退職時に受け取る退職金については、勤続年数に応じて課税所得から控除できる控除額が増えていく仕組みがとられている。これまでの多くのサラリーマンは学校を卒業して勤めた会社に長年にわたって貢献し、そのご褒美として貰う退職金については税制上優遇されてきたことが背景にある。具体的には勤続20年までは、毎年40万円を控除、20年を超えると控除額は毎年70万円に増額される。

 たとえば勤続40年で、退職金が2200万円だとすると、控除できる金額は40万円×20年+70万円×20年=2200万円で、実質課税されないということになる。

ADVERTISEMENT

 退職金に対する課税上の特例はこれだけではない。実際に控除された所得額をさらに2分の1にして課税対象とする。たしかに大きな優遇措置が施されていると言える。

 いっぽう勤続5年以下で退職金が支払われた場合、控除後の所得額が300万円を超えるものについては2分の1にせずに課税する改正が2022年に行われている。

 今回どのように改正するかについてはまだ明らかになっていないが、勤続20年超の控除額を毎年40万円に統一するのではないかという説が有力である。国は表向き、長年勤務することが美徳とされてきた就業環境を是正し、早期の転職を促し労働市場を活性化させるとの狙いを語るが、勤続5年以下では増税しているところをみるとあまり説得力がない。

通勤費や出張旅費、日当も対象に

 サラリーマンに対する課税強化はどうやらこれだけではなさそうだ。給与所得控除や通勤費、出張旅費などの控除についても手が付けられるのではないかと世の中喧しくなっている。通勤費や出張旅費、日当なども給与として所得税の対象にしようというものである。

写真はイメージ ©iStock.com

 国は当然こうした騒ぎになることは百も承知している。彼らが大切にしているのは大企業であってサラリーマンたちではない。法人税については段階的に引き下げを行ってきているが、一部の政党、政治家と一部の大企業は献金とその見返りとしての様々な利権で結びついている。彼らの機嫌を損ねるような法人税の増税にはなかなか手が付けられない。だが、企業に勤務するサラリーマンが対象であれば、企業の財布を痛めることはない。むしろ今回の改正では、40代や50代で会社としては「用済み」となった社員たちが、退職金ほしさにずっと居座る背中を押してやる効果すら期待できるのだ。