資産を巡るバトルでも、相続税対策でもない。最近の相続現場では、親が遺した「いらない不動産」に悩まされる「新・相続問題」が多発しているといいます。

  ここでは不動産コンサルタント・牧野知弘氏の新刊『負動産地獄 その相続は重荷です』(文春新書)より一部抜粋して紹介。東京郊外に住むAさん(85)がよかれと思った「節税対策」が悲劇を生むことに。不動産のプロが「絶対に親子会議を行うべき」と勧めるわけは?(全2回の1回目/続きを読む

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 相続は、実際に起こるまで、被相続人(例えば親)も相続人(例えば子)も、自分からはなかなか切り出しにくい話題です。しかし、事前に何の話し合いもなく相続が発生すると、亡くなってしまう親はともかく、相続する子が、どうしてよいかわからずにおたおたするというのが実情です。

 事例を紹介しましょう。東京の郊外にお住まいのAさんは、代々農業をやってきました。

 Aさんは高校卒業後、しばらく都内の会社に勤めていたのですが、父親の相続を機に農業を継ぎ、野菜や果物を作ってきました。齢85。

 広大な農地は生産緑地に登録しているため、固定資産税等は減免されていますが、そろそろ相続が心配です。子は55歳の長男が一人。都内に勤務するサラリーマンで、彼には農業を継ぐ意思はありません。

※写真はイメージです ©iStock.com

節税に強い税理士のアドバイス

 まずは農協に相談したところ、資産税に強い税理士を紹介されました。彼がアドバイスするには、農地が宅地化されると膨大な額の相続税が課せられるので、対策が必要。所有している農地に賃貸アパートを建てても、効果はしれているし、だいいち農地があるところは宅地とはいえ、賃貸需要があまり見込めない。

 であるならば、都内一等地にある中古の賃貸マンションに一棟丸ごと投資してみたらどうか、というものでした。借金をすれば節税効果も高いことに満足したAさんは、農協で多額のローンを組んで、不動産会社が紹介してきた物件を買うことにしました。