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両親が遺した「いらない実家」を売却しようとしたが…還暦超えの長男が直面した「ニュータウン相続」の厳しい現実

『負動産地獄 その相続は重荷です』#3

2023/03/27

source : 文春新書

genre : ライフ, 社会

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 資産を巡るバトルでも、相続税対策でもない。最近の相続現場では、親が遺した「いらない不動産」に悩まされる「新・相続問題」が多発しているといいます。

 ここでは不動産コンサルタント・牧野知弘氏による新刊『負動産地獄 その相続は重荷です』(文春新書)を一部抜粋して紹介します。

 横浜市郊外のニュータウンにあるAさん宅。Aさんと妻が他界し、子供たちは実家の売却を決断したのですが――還暦超えの長男が直面した「ニュータウン相続」の厳しい現実とは?(全2回の1回目/続きを読む

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 ニュータウンの供給が活発に行われたのは1970年代前半です。高度経済成長により、人々が職を求めて都市部に集中を始めていた時代に該当します。

 さて当時、ニュータウンに住宅を求めていたのは30歳から40歳代です。ということは、現在の年齢はおおむね80歳から90歳代に相当します。ニュータウンで育った子供たちは50歳から60歳代。当然のことながら相続が頻発する世代に該当します。

 神奈川県横浜市郊外にあるニュータウンを例に、相続を考えてみましょう。70年代前半に分譲されたこの街は、ゆったりとした敷地に瀟洒な一戸建てが並ぶニュータウンで、都内に勤務する大企業サラリーマン、医者、パイロットなどがこぞって買い求めた人気物件でした。

※写真はイメージです ©makoto.h/イメージマート

 時が経ち、このニュータウンで育った子供たちはそのほとんどが東京都心に勤め、50歳から60歳代になった彼らはすでに都内のマンションなどに居を構えています。親はすでにほとんどの人がリタイアし、毎月のようにそこかしこで相続が発生しています。

Aさん宅が直面した「ニュータウン相続」問題

 相続が発生したAさん宅は、敷地面積80坪に延床面積32坪の住宅が建っています。2人のお子さんたちはすでに独立され、家では奥様と2人暮らしでした。さて相続税評価額がどうなるかといえば、路線価単価は1㎡当たり7万5600円、坪に直すと25万円です。

 80坪の敷地ですから相続税評価額は2000万円になります。建物は固定資産税評価額で500万円。合計2500万円。Aさんには家のほか現預金や有価証券で5000万円ほどの資産があり、奥様と2人のお子さんの基礎控除額合計である4800万円(3000万円+600万円×3人)を超えてしまいます。

 しかしながら、遺産総額は配偶者控除1億6000万円の範囲に収まりますし、自宅はこのまま奥様が暮らすので小規模宅地等の特例で敷地の評価は評価額の2割、つまり400万円に減額されます。とりあえずの相続にあたっては少なくとも課税の心配はありませんでした。