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両親が遺した「いらない実家」を売却しようとしたが…還暦超えの長男が直面した「ニュータウン相続」の厳しい現実

『負動産地獄 その相続は重荷です』#3

2023/03/27

source : 文春新書

genre : ライフ, 社会

二次相続が発生、還暦超えの長男の苦労

 ところがAさんの亡くなった数年後に、奥様が亡くなり二次相続が発生しました。相続税評価額は総額7000万円になっていましたが、この段階では配偶者控除も小規模宅地等の特例(被相続人と相続人が同居していないと適用されません)も適用されないため、約320万円もの税負担を余儀なくされました。

 さてAさんの息子さんもすでに還暦。自分の家は都内に構えているものの、まだ住宅ローン返済が残っています。その状況での相続税支払いは全くの想定外でした。さらに残されたニュータウン内の家の管理をしなければなりません。妹は九州に嫁いだため、家の管理に参加はできません。

 隔週で自ら実家に出向き、通風や通水、掃除をします。この程度ならまだしも家の中は家財道具の山。どうしてこんなにモノをため込むのかとため息をついても、張本人である両親はすでにいません。少しずつ片づけるものの還暦を過ぎた身体には結構な重労働です。夏はちょっと目を離したすきに、広めの庭の草木は生い茂り、勝手口に置いていた物置にはハクビシンが棲みつく、軒下には足長バチが巣を作るなど散々です。

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※写真はイメージです ©AFLO

不動産屋のつれない返事

 そこで妹とも相談の上、自分たちの育った家ではあるものの、この先利用するアテもないことから売りに出すことにしました。ところが不動産屋の返事はつれないものでした。平成バブル時代には新築であれば1億円台を付けたはずなのに査定額はなんと1800万円程度。路線価評価額以下です。

 不動産屋曰く、最寄り駅までバスで20分。バスも減便されて日中は1時間1本。都心まではさらに1時間以上かかる。エリア内の小学校もすでに統合されて、通学にも支障が出て小さな子を連れたファミリーには人気がない。ニュータウン内にあったスーパーも住民の高齢化とともに撤退。1800万円でも売れるかどうかは全くわからない、とのこと。実際に売りに出してはみたものの、半年たっても問い合わせがありません。

 賃貸も考えてはみたものの、これらの条件下ではさらに需要がないことは明白です。「売れない」「貸せない」「自分も住む予定がない」。この三重苦の家の扱いに途方に暮れるのがAさん宅のニュータウン相続です。