クマの寝込みを襲う修行 in USA
2011年、私はアメリカクロクマの調査を行うため、アメリカに3ヶ月留学することにした。なぜアメリカなのか。
それは、同じ個体をずっと追跡する確実な方法が知りたいという必要に迫られての思いからだった。
足尾の調査で見てきたように、当時の私はクマのGPS首輪を効率よく回収できないことが悩みだった。どうやれば同じ個体を長く確実に追跡できるのか。そう考えていたときに、「アメリカではアメリカクロクマが冬眠している穴に入り、冬眠中のクマを捕まえて首輪を付け替えている」という話を小耳にはさんだのである。
冬眠の穴に入るなんて正気の沙汰とは思えない。そんなことをしたら返り討ちに遭って命の保証すらないではないか。山梨の冬眠穴で目の前に現れた、あのメスの黒い鼻の孔がどうしても脳裏に浮かんでしまい、思わず身震いしてしまう。
しかし、アメリカのミネソタ州ではかなりの数を成功させているというのだ。当時、州の森林研究所に勤めていた研究者のデイヴ・ガーシェリスさんはいった。
「30年間やってきて、穴の中で怪我をした人は1人しかいないね」
逆に考えるんだ。ツキノワグマにこのノウハウを応用できたら首輪の回収率だけでなく、いろいろな研究が飛躍的に進歩するぞ。「虎穴に入らずんば虎児を得ず」ではないけれど、「熊穴に入らずんば首輪を得ず」なのかもしれない! これは何としても現地に飛び、実際に捕獲を体験して技術を学ばなければ。
そんな思いを募らせていたところ、留学のチャンスが巡ってきたというわけだ。
クマよりも飛行機が怖い
しかし、調査を行うにあたってひとつ大きな問題があった。アメリカでは、クマを探すためにセスナに乗らなければいけないということだ。
何度でも言う。私は高所恐怖症であり、小型飛行機は大の苦手だ。ただでさえ嫌でたまらないのに、デイヴさんはこんなことをいってくる。
「大型哺乳類研究者の死因ナンバーワンは、小型機の事故なんだぜ!」
なんてこった……。クマよりも飛行機に殺される確率のほうが高いとは。
しかしここでひるんでは、はるばるアメリカにまで来た意味がない。怖くて身震いは止まらないが、腹を括るしかない。
ということで、私は4人乗りの小さな飛行機に乗り込んだ。