調査で行ったアメリカのミネソタ州では、凍った湿原の中に、アメリカクロクマがポツーンと1頭で眠っているのが観察できる。なぜだか穴に入らずに寝ている奴もいる。それで、上空から黒いポツっとした点を発見したら、急降下してものすごい低空飛行をし、黒い点がクマかどうかを確認する。そして、
「ああ、いたね~。よかったよかった」
と、また急上昇するのだ。
アメリカ人のおおらかさの裏返しだろうか、それともパイロットが映画『トップガン』のトム・クルーズみたいな海軍の戦闘機乗りだったのだろうか。とにかく操縦が荒っぽいのだ。
日本と違って山が少なく広大な平原だからこんな飛行ができるのだろう。しかし、この急降下と急上昇のときの胃のあたりがフワッとするあの感覚たるや。繰り返されると、オエップと吐き気がこみ上げてくる。これを毎日、1日6時間繰り返す。高所恐怖症なのに、小型機で起きている時間の1/3を過ごさなければいけないだなんて、苦行でしかない。
寝起きの怒れるクマを捕まえる
では、肝心のクマ捕獲はどうだったのか。
山がちな日本と違って八木アンテナを振っても電波がよく拾える。移動も一面の雪だが雪上車が使えるのであまり苦労しない。最初のころは、冬眠穴を見つけて捕獲作業が始まってもデイヴさんがやっている様子をただ見学しているだけだった。
そしてあるとき、
「お前もやってみろ」と麻酔銃を渡された。おそるおそる冬眠穴に入ってみて、アメリカクロクマの姿を確認する。すると、2つの目が闇の中でキュピーンと黒光りしているではないか。安眠を妨害されたのだから、当然クマはカンカンである。目線を外さずにじっとこちらを睨んでいるところを見ると、
「やんのかゴラァ!」とでもいいたげである。漫画ならば頭からシューシューと湯気が立ち上らせて怒っているところだろう。しかし気のせいか、おびえているようにも見えた。
おそるおそるだが捕獲には成功した。
子グマのかわいさで捕獲現場が一気に和む
結局アメリカ滞在の3ヶ月の間にかれこれ30頭ほど捕獲できたのである。ときには麻酔銃ではなく、棒の先にくくり付けた注射器を直接ブスッと刺して麻酔したこともあった。
メスの巣穴の中には子グマがいることもあった。あのコロコロした姿を見るたび、子グマと触れ合った秋田のクマ牧場での記憶と胸の高鳴りがよみがえってきた。
子グマはかわいい。ツキノワグマだろうとアメリカクロクマだろうとめちゃくちゃかわいい。緊張感たっぷりの捕獲現場も一気に和む。
「日本でもこんなふうに野生の子グマと触れ合いたい!」と思った。