こういうケースで目立ってしまうのが三塁コーチャーの宿命なのだ
つい、昨夜の「伏見本塁憤死」の話になる。空は残照が消えかけて、だんだん夜の色に変わろうとしている。お父さん、昨日は伏見が本塁憤死しちゃいましたねー。あれはまいったなー。
シーンを振り返ろう。昨夜のロッテ14回戦である。試合は加藤貴之、メルセデスの投手戦、と言いたいところだが、両軍チャンスを作りながらあと1本が出ないモヤモヤする展開。特にノーアウトのランナーを出し続けたロッテはうっ憤がたまっただろう。スコアは1対2。7回表、二死から伏見寅威がレフトへ二塁打を放った。マウンドにはこの回から横山陸人。メルセデスを攻めあぐねてただけにここは同点に追いついておきたい。
9番、五十幡亮汰が打席に入る。この日ここまでノーヒット。5球目、シンカーを拾った。会心のセンター返し。二塁から伏見が帰ってくる。ロッテのセンター岡大海は前へ突っ込んで矢のような送球を返す。これがナイススローだった。伏見がすべり込むだいぶ前にストライクの球が来て、結果的に余裕の(?)本塁憤死。コーチャーズボックスを離れ、塁間半ばまで来ていたひちょりコーチは残念そうに背中を向ける。
そうなのだ。こういうケースで目立ってしまうのが三塁コーチャーの宿命なのだ。SNSでも叩かれがちだ。実際、昨夜も「ひちょりコーチ、トライくんの足の遅さを知らないな?」というのを見かけた。まぁ、これなんかユーモアのトーンがあって上品な方だ。ここに載っけられないようなのも沢山ある。特に13連敗中はみんな気が立っていて、言葉も乱暴になっていた。
もちろん森本稀哲コーチが「トライくんの足の遅さ」を知らないわけない。また、元ファイターズ岡大海の強肩を知らないわけない。それを承知で回したのだ。ギャンブルだ。自身、ゴールデングラブ外野手だったひちょりは、どんな名手であってもひとつ歯車が狂えば本塁送球が逸れると知っている。もし、逸れてくれたら同点だ。突っ込ませる価値は十分ある。
お父さんの目にはルーキーもレギュラーもオールスター出場も三塁コーチャーもない
それに昨夜の試合展開は、1点差負けが続いた13連敗中に酷似していた。パターンとしては「早い回に1点先制するのに、その後パッタリ当たりが止まる→僅差の逆転負け」。昨夜はロッテが2点先制し、ハムが1点返した1対2だったから順序は逆だったけど、だいぶいやーなムードだった。あのケース、伏見を三塁にとどめて、もう1本ヒットが続く保証なんてどこにもない。
と、擁護してみるが、同時に「ヒットが続かない保証(?)」もないのだ。二死1、3塁から1番加藤豪将が右中間を破る2点タイムリー2塁打ということだって十分あり得る。あり得るだけにファンは「暴走→本塁憤死」を仕掛けた三塁コーチャーを責めたくなる。思えば(1点が遠かった)13連敗中も同じことがあった。盗塁死、走塁死でチャンスをつぶしてばかりいるように見えた。
まぁ、点が取れてたらこんな苦労はないのだ。昨夜は9回、万波中正、マルティネスの連続ホームランが飛び出して、「伏見本塁憤死」の一件を帳消しにしてくれた。
さぁ、今日はお父さん、どんな試合になりますかねー。お父さんはZOZOマリンのナイター照明を浴びた三塁コーチャーを見る。お父さんの目にはルーキーもレギュラーもオールスター出場も三塁コーチャーもない。応援あるのみだ。僕だってそうだ。球場に風が吹いている。ZOZOマリンけっこう涼しい。
「おお、ひちょりマジメにやってますね」「いやいや、将来有望な三塁コーチャーですよー」と楽しくて仕方なかった。よし、2連勝といきましょう。今夜のファイターズは勝ってくれそうな気がしますよ。
追伸 8対6、久々にカード勝ち越しを決めた。先発上原はアクシデントで降板したが、スクランブル登板のマーベルが5回被安打3、失点0の好投でNPB初勝利を飾った。昔はひちょりのお父さんと試合に行くとだいたい負けるのがジンクスだったけど、再結成は勝ち運に恵まれている。将来有望な三塁コーチャーのおかげだと思う。
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