「鷹の祭典2023」のフィナーレはとても劇的で美しかった。
7月30日、PayPayドームのロッテ戦は延長戦に突入する激闘に。11回裏、2死ながら満塁の大チャンスで打順が回ってきた周東佑京は、バットを構えながら打席の中で口を動かして何やら呟いていた。
「イケるぞ」
「フォークでも当てられるぞ」
「大丈夫だ、大丈夫」
普段はそんなことしないという。「打席であんな風になったのは初めてでした」。応援のボルテージが最高潮に達する中、周東は自分1人の世界に入り込んでいた。
「ここで試合を終わらせるしかない。僕たちが勝ちたい気持ちを持っているように、ファンの人たちも同じようにすごく勝ちたいと思っているのは当然わかっていましたから」
ロッテ・澤村拓一の直球を鋭いスイングでとらえると、ライナーで三遊間を抜けていくサヨナラヒットになった。周東は一塁を回ったところで被っていたヘルメットを高々と放り上げて喜びを爆発させ、ホークス側の一塁ダグアウトからは喜色満面のナインが一斉に駆け寄ってきて歓喜の輪をつくった。
勝利の立役者となった周東はヒーローインタビューでこのように言ってのけた。
「1勝もできない鷹の祭典なんて、あっちゃいけない」
苦しかった。チームもファンも苦しかった。
「鷹の祭典なんてやめちまえ」という声も
この少し前、ホークスは7月25日のオリックス戦で球団54年ぶりの大型連敗を「12」で食い止め、翌日も勝って息を吹き返したように見えていた。それなのに……、地元福岡に戻っての28、29日のロッテ戦でまたしても連敗を喫していた。
鷹の災典。
こんな造語が生まれたのは昨シーズンのこと。「鷹の祭典2022」も今年と同じ9試合が行われたが<●●●●●○●●●>という惨憺たる結果に。いったい誰が、どのタイミングで「災典」と言い始めたのか不明だが、あまりの言い換え上手に鷹ファンの間にそれは一気に広まった。
そして「鷹の祭典2023」も6月26日の東京ドームで敗れると、7月10日の京セラドーム、同12日の北九州市民球場、15~17日のPayPayドーム・オリックス戦、そして28日と29日のロッテ戦に敗れて8連敗となっていた。
負けがかさめば心はすさむ。愛と憎は表裏一体なのだが、祭典を「災典」と揶揄するだけにとどまらず、「鷹の祭典なんてやめちまえ」という声もそれなりの数を聞いた。
悔しいのは分かる。
だけど、鷹の祭典をなくすことは大反対だ。
世の中には一時的な「流行」で終わるものが溢れかえる中、鷹の祭典はスポーツ界と街の「文化」として根付くまでになった。
鷹の祭典は毎年デザインやカラーが変わる限定ユニフォームと、そのレプリカユニフォームを来場すれば無料でもらえるのが最大の目玉だ。
このレプリカユニフォームを配布するという試みは今では球界全体に浸透しており、さらには競技の垣根を越えてサッカーJリーグやバスケットボールBリーグなどでも見られる現象となった。
それを最初に行ったのがホークスだったのだ。