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大御所からプレゼントされたバットを放置…巨人・岡本和真が最高のキャプテンになる日

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 最近の若者は◯◯だ――。

 はるか古代から言われていたとされるこの言葉。多くの場合、「◯◯」には批判的な言葉が入ると思います。

 このコラムを読んでくださる方も言われたこと、そして思ったり、言ったりしたことがあるでしょう。

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 プロ野球界に目を向けてみると、多くの選手が「ゆとり世代」や「Z世代」と呼ばれる年齢になっています。今回は我がジャイアンツの中心を担う「最近の若者」にスポットを当てていこうと思います。

笑撃のヒーローインタビュー

 チームの主将を務め4番に座り、6年連続30本塁打を達成した岡本和真選手。

 侍ジャパンにも選ばれ、押しも押されもせぬ日本を代表するスラッガーです。6年連続30本塁打という数字は、長い球史で達成したのは9人目という快挙。

「奈良から来たジョニー・デップです」

 2015年、ルーキーイヤーに初めて上がったお立ち台でいきなりかました自己紹介。

 実はこれ、ヒーローインタビューで披露する前に初めて1軍昇格を果たした時にチームメイトを前に披露した自己紹介だというのです。

 当時の1軍には、翌年から監督に就任する高橋由伸さん、大重鎮となっていた阿部慎之助さん、「漢」と呼ばれた村田修一さんなどがいました。その中でいきなりこれを言えるのは、類いまれなる個性だと思います。

 たとえば最強・PL学園の立浪和義さんを前に、後輩の宮本慎也さんが初対面でいきなり「ジョニー・デップ」をかますのは決して想像できない光景です。

 自分に置き換えてみても、純烈のメンバーと初めて対面した22歳当時にこんなフレーズをいきなり言うことは絶対に不可能でした。もし、誰かに言うように命じられても、ビビりまくりながらの顔面硬直での披露となり、1ミリの笑いもない地獄の光景になったことでしょう。

 テンションを上げるわけでもなく飄々ととぼけた言葉を放ち、周囲を笑顔にする。そんな岡本選手の姿は、ジャイアンツファンにはお馴染みになりました。

 そんな愛されキャラが爆発している岡本選手。若手ということもあり、先輩やコーチからいろいろなアドバイスをもらっていた時期があります。

岡本和真 ©時事通信社

「いらねぇのかよ」大御所がポツリ

 あるとき17年も歳の離れた阿部さんから「これで振ってみろ、力強く振れるから」と、アドバイスとともにバットを譲り受けます。

 想像してみてください。

 ひと回り以上歳の離れた大先輩から、大切な商売道具を譲り受ける。光栄な思いで興奮し、是が非でもそれを使いこなそうと躍起になるのではないでしょうか?

 しかし、ここで違いを見せるのが岡本選手。

 数日間それを使った後、自分には合わないということでキッパリ手放します。

 使われることなく置いてあるバットを見た阿部さんが、「なんだよ、いらねぇのかよ」と漏らしながら回収するというオチがつきます。

 僕もそうですが、先輩からアドバイスをもらったら、まずはそれをやってみようとします。結果的にフィットし、自分が向上することも多い反面、なかなか咀嚼できずに迷路に迷い込むこともあります。

 30代の半ばを迎えた今なら、やってみて合わなかったらサッと隅の方に寄せて手放すということができますが、20代の頃はなかなか難しかったです。20代前半で、この感性が身についていた岡本選手。その芯の強さを手に入れたいと思う方も多いのではないでしょうか。

 そして、そのバットを使うように強要しなかった阿部さんの懐の深さも、こうした若者が育つ大きな要因なのでしょう。

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