個性派レジェンドに通ずる芯の強さ
アスリートにかかわらず、各分野で成功を収める方には少なからずマイペースで我が道を行く部分があると思います。
自分の感覚や考えを元に、日々の練習や実戦に挑んでいく。周りの顔色やその場の空気を読みながら、立ち振る舞うことが求められる、一般の社会でこれを実践するのはなかなかの苦難の道でしょう。
オレ流でお馴染みの落合博満さんも、安打数世界記録保持者のイチローさんも、自らの野球道をただ真っすぐに突き進んでいた印象です。
ゴリゴリの体育会系の時代を駆け抜けたその生き様は「オレ流」と呼ばれたり、時に「変人」という印象を持たれたりすることもあったかもしれません。
岡本選手もこの先人たちに近い芯の強さを感じます。
中学時代、スカウトのため強豪高校の監督が視察に来た時、多くの選手がアピールのため張り切る中、岡本選手はわざとずっとセカンドゴロを打っていたそうです。
その心は「誰かに見られて張り切るというのは違う」と感じていたとのこと。そして「わかる人にはわかる」とも語っていたそうです。
思春期独特の反抗に見えなくもないですが、今現在の姿を見ていると当時からブレない心を持っていたのだとわかります。
僕自身、純烈としてどのステージもなるべく均等な心持ちでのぞむというスタンスで仕事をしています。
仕事に大きいも小さいもない、目の前の人に向けてしっかり仕事をしよう。デビューから10年以上の時を経て、やっと実践できるようになってきました。
昔はやはり大きなステージになったりすると、気合を入れまくり空回りしたりするのがほとんどでした。
僕が30歳を超えてから身についたことが、中学生時代から身についていた岡本選手。1996年生まれ、昭和の時代をまったく知らない「若者」ですが、昭和の体育会系を生き抜いた先人にも劣ることのない芯の強さを持っています。
一方で、岡本選手には落合さんやイチローさんに漂う「孤高の男」というイメージはありません。
初めてのお立ち台で「ジョニー・デップです」とかまし、WBCでのお立ち台ではとぼけた雰囲気で「最高です」を連発する。チームメイトとのやりとりを見ても孤高どころか、むしろイジられキャラを担っています。
この両極端な個性のほどよい混ざり具合こそが、令和のスーパースターとしての要因なのではないでしょうか。
ここに加えて、今季からはキャプテンという立場が加わりました。チームを引っ張る役目が求められる立場が、岡本選手にまた一つエッセンスを注入します。
チームが連敗した8月5日のマツダスタジアムでの広島戦の試合後、野手陣を集めて緊急ミーティングを開いた岡本選手。翌日は自身初の1試合3本のホームランをかっ飛ばし、チームとしても13点を奪って大勝しました。
ミーティングの内容を質問された記者に「内緒」と返答する、とぼけっぷりは残しつつも、しっかりチームをまとめ上げている様子がわかります。
キャプテンに任命した原辰徳監督も岡本選手を「ボキャブラリーの多さはすごく高い」と評しています。今まで見えてきた姿からすると意外な一面に思えますが、新たな岡本選手の魅力でしょう。
芯の強い主砲として豪快アーチを描き、とぼけた雰囲気で周りを笑顔にし、主将としてチームを優勝に導く。
これが達成された時に、オールドファンもみんな声を揃えてこう言うことでしょう。
――最近の若者は最高だ!
――ジャイアンツの未来は明るいぞ!
27歳のキャプテン、岡本和真選手。
いつまでも活躍するその姿をファンとして見られることを心の底から願っています。
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