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中川皓太なら抑えて当たり前

 いろいろと思うところがあったのでしょう。翌日、中川は僕に謝ってきました。

「すみません。もう投げるので、付き合ってください」

 次の試合、マウンドに立った中川は完璧な投球を見せました。「どうやった?」と尋ねると、中川は「初めて抑えられる感じがしました」と言いました。

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「今まで空振りが取れそうと思ったことないのに、今日は初めて空振りが取れると思って取れました。今までにない感覚でした」

 ずっとボールを受け続けてきた僕からすれば、それはそうだろうと思いました。サイドから投げる中川のストレートは浮き上がるような軌道で、スライダーは1回壁に当たるように急激に変化していました。

 翌2019年、中川は67試合に登板。4勝3敗16セーブ17ホールドと大活躍します。チームのリーグ優勝に大きく貢献し、シーズンオフには侍ジャパンに招集されるほどの存在になりました。

 中川は折に触れて「誠次さんのおかげです」と言ってくれました。僕のなかにも「少しは役に立てたのかな」という達成感はありましたが、一番は本人の努力の賜物です。

 その一方で、僕は1軍で出番を減らしていました。

「もっと投げられるのに、なんで使ってくれないんだろう?」

 それが本音でした。契約更改のたびにブルペンの窮状を訴えてきたのが、首脳陣の癇に障ったのかな? という邪推も浮かんできました。2020年は状態がよくても1軍で使ってもらえず、気持ちが切れた僕は2軍でも打ち込まれるようになりました。その年限りで僕はユニホームを脱いでいます。

 野球に対して恨めしい思いがあったのは、以前のコラムでも触れた通りです。それでも巨人の試合、とりわけ中川の登板は他人事ではなく追い続けてきました。

 ともに戦力として、チームの日本一になれればベストでした。その夢は叶いませんでしたが、今も中川は第一線で頑張ってくれています。

 2022年は故障で全休し、オフには育成選手に降格する逆境も味わいました。それでも見事にカムバックし、今季は苦しいブルペン陣を支えています。

 とはいえ、8月に入ってわずか3試合の登板で2敗を喫するなど、中川は正念場を迎えています。2年ぶりのフルシーズンを戦うなか、疲れのたまりやすい夏場をどう乗り越えるかがポイントになりそうです。

 腕の振りを下げても、中川には力むクセがありました。スピードを求めてしまうのか、余計な力が入って脇腹にガツッとぶつかるような負荷がかかってしまうのです。脇腹を痛めやすいのはそのためで、僕は「力を抜け」と言い続けてきました。

「打たれてもいい」というくらいの気持ちで、力まずラクに投げればそれでいいんです。疲れて腕が振れないなら、体に力を入れて硬くしては余計に振れません。タコのようにぶらんと振れば、腕がしなっていいボールがいくのです。

 何年もプロでやっている人間なら、修正できるはずです。中川も「原点」を思い出せば、きっと元の状態に戻るでしょう。

 現役時代はドライな性格だった僕も、引退してすっかり涙もろい人間になってしまいました。子どもの成長を目の当たりにしては、泣かされる日々が続いています。そんな僕でも、中川の復活を目にしても涙は出てきませんでした。

 なぜなら、中川の実力なら抑えるイメージしか湧かないからです。こんなにいいボールを投げているのだから、抑えて当然。そんな感覚があるのです。

 おそらく、僕が中川で涙を流すのは、彼がユニホームを脱ぐ時でしょう。でも、その日はまだまだ訪れないはず。そんな予感がしています。

 なあ、コウタ。きっとそうだよね?

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