文春オンライン

「ビデオゲームの中の戦争は面白い」という小さな事実から始まる、現実の戦争についてのある"空想”

2023/08/16
note

 戦争をはじめるのは、じつに簡単。ボタンを押すだけだ。

 スケール感は、あなたのお好みで。個人的な闘争から、国家間の争いにいたるまで、ビデオゲームには、いろんな作品がある。

 わたしは、ビデオゲームが大好きだ。命乞いをする敗者の額に銃口をつきつけ、トリガーを引いたこともあるし、同盟国すべてを巻き込んだ世界大戦の火蓋を、切って落としたこともある。星々がまたたく無限の虚空に出て行って、同類やエイリアンと戦ったことも。下等な動物たちを捕縛し、飼い慣らし、使役したことも。ひどいやりかたで女のひとを手籠めにし、性的な興奮を覚えたこともある。それらのすべては、とても楽しかった。

ADVERTISEMENT

 現実でも、戦争をやっている。この戦争は、わたしには、ビデオゲームのように見える。

キーウの地下鉄フレシャティク駅入り口に積み上げられた土嚢に書かれた「くたばれロシア軍艦」の文字とロシア軍艦大破の絵 撮影・宮嶋茂樹

つい頭をよぎる希望的観測

 遠いモスクワの、クレムリンの王様が、なにを考えているのかは、戦場の霧でぼんやりして、わからない。

 わからないから、希望的観測をする。

 この戦争は、八百長である、とすればどうか。

 というのも、われわれ人類は、疫病を経て、おおいに疲弊した。

 重苦しい喪の空気が、地球を覆っている。経済が廻らない。物資が行き届かない。人心が乱れる。

 疫病の対応が万全だった国などないから、指導者たちはみんな、不安をもっている。そもそも、各国の統治形態それ自体に、疑いの目が向けられている。このままでは、世界の秩序が崩れ去るのではなかろうか。

 そこで、東西先進国の首脳たちが集まって、相談することになった。

 その席で、プーチンさんが言った。

「このおれに、いい考えがある」

「ここにいるみんなで、戦争をしよう」

「軍需品を生産すれば、経済効果がある。戦争の模様をつぶさに、お涙ちょうだいで報道すれば、それぞれの国の国民は、愛国心を煽られて、一致団結する。なにより、この鬱々とした雰囲気が、戦場の景気のいいどんぱちで、夏のシベリアみたいに晴れるだろう。心配するな、悪者の役は、おれがやる。まだまだ元気だが、老い先短い身だ。人類のために、一肌脱ぐよ。みんな、どう思う」

 いい考えだ、すばらしいと、みんなが賛同して、戦争をやることに決まった。

写真はイメージ ©AFLO

 人民の、戦争への関心が薄れるころには、みんな疫病のことも忘れたから、戦争もおしまいにする。そうしたら、プーチンさんは役目を終えて、ゼレンスキーさんに王様を替わる。なにせ、戦闘地域から避難せず、屋外で国威発揚な動画撮影なんかしたりして、たいへん英雄的な方である。あんなことをして狙撃されないなんて、ふしぎだが、やっぱり英雄だから、運命のほうが恥じ入ったのだろう。

関連記事