屋根瓦のシーンは一苦労
──屋根瓦を描くのが大変だとお聞きしたことがあります。
白川 鬼平の冒頭シーンは、屋根瓦の俯瞰(ふかん)から始まることが多いですからね(笑)。家が同じ方向に並んでいればいいんですが、色々な方角を向いていると大変なんです。屋根に傾斜がついているので、パースが複雑になる。手前は詳細に描いて、遠くはぼかすとか、加減をつけるのが難しいですね。
──平蔵が住む火盗改方長官の役宅の間取りは、どうされているんですか?
白川 昔のスタッフが描いた平面図が残っているので、それを参考にしています。たとえば平蔵が使っている居間は2つあって、書院では同心や与力と相対し、普通の居間では煙草をふかしたり、妻の久栄と寛いだりしています。一応、描き分けているつもりですので、今度チェックしてみてください(笑)。
──連載も30年続いていますから、かなり膨大な資料がありそうですね。
白川 お城、道場、岡場所、浅草、木場など、過去に描いた膨大なストックがあります。それを駆使して毎回、凌いでいます。
──盗賊に狙われる商家も、毎回描き分ける必要がありますね。
白川 店の構造は、担当スタッフにまかせています。勝手口から押し入って、表玄関から逃げるとか……。
──スタッフへの作業の割り振りはどうされているんですか?
白川 場面ごとに割り振っています。例えば、盗賊に襲われる商家のシーンは、一人のスタッフが描く。みんなで描くと、バラバラになってしまうんですね。盗っ人宿や町人長屋もそうです。
──脚本には細かく指定はされていないんですか?
白川 以前は細かい部分まで書かれていたんですが、実際に絵にすると、色々と矛盾が出てくるんです。現在は、脚本では場面だけ設定してあって、実際の構図はこちらで設定しています。
──『ゴルゴ13』に関しては、背景はどう描かれているんですか?
白川 ゴルゴはほとんどが海外ですからね。国ごとにビルのデザイン、看板、ゴミ箱、信号機などすべて違う。その辺のディテールにはこだわっています。調べるのは主にインターネットですね。昔はわざわざ現地まで行って、写真を撮ってきたりして、大変だったようです。今は脚色の方がネットで調べた資料を一緒に送ってくれるので、大変助かっています。
──さいとう・プロダクションに入られたきっかけは?
白川 高井研一郎さんのアシスタントだったんです。ビッグコミックの『総務部総務課山口六平太』の連載開始から終了まで31年、やっていました。高井さんが2016年に死去された後、さいとう・プロダクションに誘われました。ゴルゴと六平太の担当が同じ方だったので、「じゃあ、やってみようか」という感じです。ただ、絵柄が全然違ったので、最初は戸惑いましたね。劇画はリアルに描かないといけないので。あと、ページ数も、六平太は1回20ページですが、ゴルゴや鬼平は40ページですから、作業量が全然違いました。