『鬼平犯科帳』『ゴルゴ13』『無用ノ介』『サバイバル』……数々の名作を生み出した劇画界の巨匠、さいとう・たかを。早くから作品制作を分業制とし、各スタッフが脚本、構成、構図、作画など得意分野を受け持つというプロダクション・システムを導入した。2021年9月のさいとう・たかを死去後も、刊行を続ける『鬼平犯科帳』の舞台裏を覗いてみよう。
今回登場するのは、背景の作画を担当されている白川修司さん。鬼平では進行や段取りを割り振りする作画チーフの役割も担われている。鬼平こと火盗改方長官、長谷川平蔵が活躍するのは江戸時代後期、寛政期の設定だ。当時の風俗や町並みを劇画化するプロの技について、お聞きした。
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劇画は時代考証が大事
──鬼平の背景を描く際に、気をつけている点はどこでしょうか?
白川 やはり時代考証ですね。同じ建物でも、町人長屋と武家屋敷では構造や間取りが全然違う。例えば台所の竈(かまど)の位置も、武家と町人とでは違うんです。また、火元の位置も関東と関西では違っていたりする。髪形や着物の柄も重要です。当時は身分社会ですから、髪形や着物でその人物の階級が分かる。子供でも、武家と町人、農民では全然違うんですね。着物にも流行があって、チンピラっぽい奴が出た時には、当時流行した柄を取り入れたりしています。
──どんな資料を参考にしているんですか?
白川 映画やドラマで使用した時代劇のセットの写真集が出ているので、それは重宝しますね。他には浮世絵や、古民家の写真集なんかも参考にします。
──資料集めにはご苦労があるんじゃないですか?
白川 実は鬼平に関しては、江戸時代の風俗に詳しい監修の方がいて、その人が資料を集め、下書きをチェックしてくれています。縁の下の力持ちのような存在ですね。ただ、資料が浮世絵だったりするので、それを劇画調に直すのが大変なんですが……どうしても分からない部分は、想像力で補います(笑)。
──いちばん難しかったシーンは何ですか?
白川 大名行列は大変でしたね。騎馬や歩兵の武士、鉄砲や弓を持った足軽、道具箱や槍持の中間など、とにかく多種多様な人間をたくさん描かないといけませんから。