いろんなテレビの見方というのがあるだろうが、つけてるのに見ていない、というのはけっこうある。何かやってて視線は手元にあるが面白そうなことがあればテレビに顔を向ける。ついには最初から最後まで画面を見ずに終わる番組なんていっぱいある。声も音楽もほとんどホワイトノイズ。視聴者を振り向かすことすらできないテレビ番組とはいったい何なのか。
が。一方で、そういう番組の心地よさというのは確実にある。ぬるいバラエティの音(だけ)を、見ないだけでなく聞きもせずに二時間とか、不快だったらテレビ消すと思う。それは番組のデキとはまるで無関係な話で、バラエティでも聞き流せるのと流せなくて消すのとある。松本人志は消す。ビートたけしは消さずに流せるようになってきた。
で、ホワイトノイズ番組の中で私がもっとも秀逸だと思うのが、Eテレ『すてきにハンドメイド』。タイトル通りの手芸番組。ホワイトノイズにふさわしいほっこり平和番組だけど、これがたとえばEテレ平和番組でも健康や園芸、芸術、囲碁将棋系だとわりと見るか消すかしちゃう。
手芸用語というのが人の脳をとろーんとさせるんです。
接着芯、縫い代、印つけペン、とじ針、刺し鼻、合印、中表、段数マーカー、増やし目、作り目……。これ、理解しようとか聞こうとか思ったらダメ。このコトバの音に身を委ねる。手芸というのが基本、ちくちくとか、コツコツとか、そういう動きなので、そこにこれらのコトバが乗って淡々と流れるのを聞き流していると前頭葉のあたりがうっとりとしびれてきますよ。たまらんですよ。コツは画面を見ないこと。内容を聞き取ろうとしないこと!
ただこの番組、宮川花子に奥野史子に東尾理子が順繰りに司会で出てくるんだが(他に局アナの杉浦さんと勝野洋の息子が出てるが)多少の当たり外れがあり、宮川花子は最初うるさいんじゃないかと思ったら割とそうでもなく、うまく手芸用語の波の中に漂っている。ちょい残念なのが奥野史子で、どうもいつ見ても緊張してるようでもっと手芸の海にゆったりと浸かってほしい。絶品が東尾理子。声質もしゃべり方も、間も抜群。この人の時はほぼ編み物なんだけど、編み物用語の音の波と溶け合ってうっとりですよ。いやー、この人と結婚した石田純一まで私の中で株が上がった。眠れぬ夜はぜひ理子と編み物で夢の世界へ。
▼『すてきにハンドメイド』
NHK・Eテレ 木 21:30〜21:55
http://www4.nhk.or.jp/handmade/