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「これで小沢は終わりだ。小沢の闘いも終わる」逮捕されたのは、自民党の派閥のドン…小沢一郎の政治生命が尽きかけた「金丸脱税事件」の衝撃

『壁を壊した男 1993年の小沢一郎』 #2

2023/08/14
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 同じ頃、私は野党担当記者として予算取材にあたっていた。その取材は衆院通過が決まった時点でヤマを越える。予算案については憲法上の規定により衆議院の優越が認められているため、事実上成立が決まるからだ。

 所得税減税を求めて審議拒否を続けた野党だが、梶山が水面下の交渉で「所得税減税を前向きに検討する」と約束し、手を打った。これによって予算案は6日土曜日に本会議にかけられる日程になった。

 残る私の主な仕事は、予算通過後の野党の談話取材だ。これは既に予定稿ができている。不測の事態が起きないか見届けるのは同僚記者に任せて、久しぶりに早めの帰宅をしていた。

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 自宅で夜7時のニュースをチェックしていると、机の上に置いてあったポケベルがけたたましく鳴り始めた。政治部の電話番号が表示されている。自宅の電話にかけてこずにポケベルを鳴らすのは、緊急時の一斉呼び出しの時だ。

 ひどく嫌な予感がした。政治部にかけても案の定繋がらない。記者クラブにかけても話し中だ。何か重大な事態が発生しているのは間違いない。

「金さんがパクられたらしいぞ」

 何が起きたんだ……。そのうちサブ・キャップから電話がかかってきた。

「あのな、金さん(金丸)がパクられたらしいぞ。詳しいことは分からないが、東京地検で発表があるらしい。社会部は完全にテンパってるからそっちでも情報を取ってくれ。野党の反応もいるな。原稿は俺が受けるわ」

 いつものように眠そうな口調でそれだけ言うと、電話は切られた。

 この人は、何が起きても動じない。大した度胸だと思ったが、いまは感心している場合じゃない。私は慌てて知り合いの政治家や秘書に片っ端から電話をかけた。話し中が多くなかなか繋がらない。運よく繋がっても、

「何があった? どうなっているんだ?」

 と逆に質問攻めに遭う状態だった。

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