東京地検が金丸逮捕を正式に発表したのは午後9時。容疑は、割引債など4億円の所得を隠していた脱税だ。
金丸ほどの大物政治家が蓄財としか思えない所得隠しをしていた事実は、政界やマスコミに深刻な衝撃を広げた。金丸逮捕が政局に重大な影響を与えるのは間違いない。私は、特に小沢の行動は、かなりの制約を受けるのではないかと思った。
「金竹小」の一人であり、むしろ権力を行使する実権は小沢が持っていた。竹下のスキャンダルでも証人喚問に応じざるを得なかった。事件がどういう展開を見せるにしても、小沢の関与が当然疑われるし、説明を求められる。政治行動が制約を受けるだけでなく、場合によっては小沢自身の政治責任も厳しく問われるに違いない。
「これで小沢は終わりだ。小沢の闘いも終わる」
政界に関わる誰もがそう考えた。私も少なくとも政治改革を巡る動き、特に小沢が進めている水面下の野党工作は、中断せざるを得ないだろうと思った。
小沢とその周辺は現役の小沢番が中心となって取材している。しかし、各社が取材対象に殺到している状態のなかで、独自の取材をすることは難しい。そういう時こそ、長年苦労して関係を築いてきた「OB記者」の出番だと思っていた。それはある種の功名心でもあるが、担当でなくても「他社に抜かれる恐怖心」は変わらない。現役の小沢番の邪魔にならないように、密かに小沢の胸中を知る方法はないだろうか……。
小沢に電話を入れると…
私は深沢の小沢の私邸に電話を入れた。受話器を取ったのは、住み込みの秘書だった。
「先生は誰の電話にも出ないと言っています。取材は、明日の昼頃に懇談でコメントを出すと番記者の皆さんに連絡したところです」
予想通りだった。
私が「じゃあ、それが終わった後、夕方には1人でこっそり行くからと伝えておいて」と頼むと、「分かりました。先生が会うかどうかは分かりませんが、一応伝えておきます。5時過ぎでいいですか」と了解してくれた。