一通の仕事の依頼メールが届いた。

 開いてみると、第17回白瀧あゆみ杯決勝戦の聞き手を依頼したいとのこと。

 これはもしやと思い、喜んで引き受けた文末に、「当日は和服着用ですか?」と添えてみた。返ってきたメールには「白瀧さんが訪問着をご用意してくださるそうです」。

ADVERTISEMENT

 わーい、久しぶりに和服、しかも訪問着が着られるぞー!

「和服を着てタイトル戦を戦う」は多くの棋士・女流棋士の夢

 将棋界にとって和服は非常に近く、しかし、憧れの装いでもある。

 普段の予選の対局はスーツや、相応の私服で行われている。その長い長い予選を最後まで勝ち続けた1人と、その時のタイトル保持者で行われる番勝負で和服を身に纏う。

「和服を着てタイトル戦を戦う」というのは、多くの棋士・女流棋士の夢なのだ。

 その夢の舞台を若手の女流棋士に経験させてくれるのが、白瀧あゆみ杯の決勝戦である。多くの棋士・女流棋士がお世話になっている老舗呉服店、白瀧呉服店の一室を対局場に、対局者は袴を着て戦う。

左から私、佐々木海法女流1級、武富礼衣女流初段、佐藤天彦九段 ©上田初美

 対局室から素敵な日本庭園が見え、まさにタイトル戦のような環境であり、若手の内に「タイトル戦とはこういう感じなのか」と身をもって体感出来るのは、その後の将棋人生の糧となる。

決勝戦では人生で初めて袴で対局

 第1回白瀧あゆみ杯が創設された時のことはよく覚えている。

 1回戦は浴衣を着て、デパートでの将棋まつりの公開対局、2回戦は洋服。そして決勝戦は現在と同じ白瀧呉服店。それぞれ違った形で行われた対局は、大盤解説やネット中継が付いており、「人に観ていただく」ということの大事さと、その意識を強くした。

 決勝戦では人生で初めて袴で対局することになり、女将さんから「こうすると段差を上りやすいですよ」「こうしたら座りやすいですよ」と所作まで丁寧に教えていただいた。白瀧あゆみ杯で経験したこと、教えていただいたことは、どれも私の中で大切なことになった。

 そう、私は第1回の優勝者だ。

対局が近づくにつれて緊張感が増していく

 素敵な訪問着を着せてもらい、ピシッと台本に目を通していたところ、「もう17回なんですね~」と何の気なしに呟いて自分で驚いた。あれから17年も経っている。

 試しに対局者の1人である佐々木海法女流1級に「おいくつですか?」と聞いてみたら「18です」と素敵な笑顔が返ってきて、思わず「ひいぃ」という変な声が出た。1歳の頃からあるなんて、長い間この大会を継続してくださっている白瀧呉服店さまには心から感謝を申し上げたい。

 その隣で、もう1人の対局者である武富礼衣女流初段は「今回わたし初出場なんですけど、最年長なんですよ……」と大真面目な顔をして言って、笑いをかっさらっていった。この大会に出場できるのは、全員若手ですよ。