和気あいあいとしていた控え室だったが、対局が近づくにつれて緊張感が増していった。
対局室に移動し、駒を並べ、立会人兼解説の佐藤天彦九段が対局開始の号令をかけて対局が始まる。この流れもタイトル戦と同じ流れだ。
佐藤九段の解説に部屋は笑いに包まれる
対局開始を見届け、大盤解説室へと移動した。
20人ほどのこぢんまりとした様子は、昔ながらの解説会を思い出す。中には浴衣のお客さまもいて、少し嬉しくなった。将棋を通じて和服を、和服を通じて将棋を。私たちがしている仕事が、いろいろな「好き」を繋げてくれたら、嬉しい。
軽快なトークに定評がある佐藤九段の解説に部屋は笑いに包まれていた。「貴族」の愛称の天彦さんは、私と同年代であり、夫とも仲が良い。
自身のこだわりを強く持っていて、それはもちろん和服にも影響しており、どれも個性的である。棋士の和服姿の中でも、佐藤九段の和服を楽しみにしているファンは多いだろう。ちなみにこの日、自前の和服に着替える前に控え室で会った時にはバラ柄(たぶん)のシャツを着ていて、さすがだな、と思った。
歴史が積み重なっていくのを感じた局後のインタビュー
優勢から勝勢へと順調に局面を進めていた武富女流初段は中田功八段門下で、佐藤九段の妹弟子にあたる。「こういう勝ち方もある」と将棋界的に言えば「カラい手」、別の言い方では「友達をなくす手」とも呼ばれるような手を、まるで妹弟子を悪の道に誘うかのように、兄弟子は楽しそうに解説していた。
そんな見えない罠をかいくぐり、素直な勝ち方で武富女流初段が優勝を決めた。
白瀧あゆみ杯では副賞として、優勝者には着物と袴一式、準優勝者には浴衣をあつらえていただける。
私も第1回で優勝した際に袴一式をいただき、タイトル戦に出た時の第1局に着た。夢が目標になり、現実になったのだ。局後のインタビューで武富女流初段も、「タイトル戦でいただいた袴を着たい」と話していた。
17年という歳月、自分が若手だった頃のように、今の若手が同じ意志を持っている。
歴史はこうやって積み重なっていくのだと、しみじみと感じた。
週末のお祭りに向けて浴衣ドレスを制作
その数日後、子ども達の夏休みが始まった。
今年の夏も子どもと一緒にやりたいこと、体験したいことがたくさんある。
まずはその週末にお祭りがあるため、大急ぎで浴衣ドレスを作った。
浴衣を身に纏い、帯を締め、髪を結い上げ、喜んでお祭りに行く。お祭りに向かって歩く姿は、いつもより楽しそうに見えた。