8月4日、藤井聡太竜王・名人と豊島将之九段の第71期王座戦挑戦者決定戦が関西将棋会館で行われた。本局の勝者が、永瀬拓矢王座との五番勝負に挑戦することになる。

 藤井の関西将棋会館での対局は、2023年に入ってからは豊島との第81期A級順位戦と村田顕弘六段との王座戦挑戦者決定トーナメント2回戦の2局しかない。また、今後も各地でのタイトル戦が主となるため、関西将棋会館での対局予定はない。七冠王というのはそういうことだ。

関西将棋会館の対局室「御上段の間」に入室する藤井聡太竜王・名人

藤井のパンチをすべて受け止める覚悟を持って臨む

 振り駒で藤井が先手になり、いつも通り角換わりに進むかと思いきや、後手の豊島が変化した。角道を開けず、飛車先交換を甘受し、雁木に組んだのだ。豊島は7手目の局面を過去50局以上経験しているが、角道を開けなかったのは初めてだ。

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 豊島はお~いお茶杯第63期王位戦七番勝負で藤井に敗れてから変わった。ずっと断っていたと言われる菅井竜也八段とのVSなど、対人の研究会を復活させた。先手では2年ぶりに矢倉を採用し、12年ぶりに三間飛車に振った。後手でも2年ぶりに横歩取りに誘導した。藤井に勝つためには、これまでとは違う方法を試みる必要があると考えたのだろう。

 とはいえ後手の5三銀4三銀の旧式雁木は、先手の6七銀4七銀の新型雁木との相性が悪く、守勢になりやすい。豊島は藤井のパンチをすべて受け止める覚悟を持って臨んだのだった。

自陣の銀は見捨て、飛車を成って王手

 この日、藤井は上着なしでワイシャツにネクタイのみだった。豊島は上着を着ていたが、開始3分で脱いだ。そして昼食休憩後にはネクタイも外して、さらにおでこに冷えピタまで貼っていた。2人とも午前中から燃えている。

報道陣の数が、注目度の高さを象徴していた

 2021年9月13日、豊島叡王に藤井王位棋聖が挑戦した第6期叡王戦五番勝負第5局が東京・将棋会館で行われ、そのとき特別対局室のエアコン温度設定が23度になっていたことを思い出す。

 意表の作戦に対し、藤井は時間を使って41手で右四間飛車に構えて、攻撃を開始する。豊島も8筋に歩を垂らし、ジャブを放ちつつ防戦。藤井は角を切って銀2枚を手にすると、自陣の銀は見捨て、飛車を成って王手する。距離を詰めてパンチを打ってくる藤井に対して、豊島も持ち駒を打ってガードを固めることはせず、玉を上がって入玉を目指しはじめる。おいおい、なんて怖い手を指すんだ。