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車が砂漠の砂にハマって動けなくなる

 何度か砂の山を乗り越えながら進んでいると、すとんと突然周りを360度砂山に囲まれてしまったのだ。なぜだかわからないが、すっぽりと穴の中に入ってしまったような感覚であった。視界に入って来る周りの景色はすべて砂色なのだ。

 テレビのドキュメンタリー番組で車のタイヤが砂漠の砂にめり込み、スタックして空回りし、動けなくなる映像を観たことがあるが、それとは違っていた(次の年にサハラ砂漠のど真ん中でそういう目に会うが……)。小さな盆地の中にいるような、深皿の底にいるような感覚だ。そしてそこから見上げているような。

 ドライバーは何度も脱出を試みるが、砂山を乗り越えることができない。少し前にはまったく感じなかった彼の焦りが伝わって来る。これは不味いことになったと私も感じ始めた。そこで思い出したのだ。砂漠を車で走破するときの鉄則は、「1台ではなく、必ず2台で行くこと」だということを。完全に油断した。後悔先に立たずだ。

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人の忠告には耳を貸すべき

 携帯電話の電波も通じない。圏外だ。夕方を迎えていたので、灼熱の太陽で干からびてミイラとなる心配はないが、このまま夜を迎えれば気温が一気に20度は下がるので危険である。とにかく今できることをやろうということで、全員が荷物を持って車を降りた。単純な作戦だが車体を軽くしようというわけだ。何度かトライした後、ようやくランドクルーザーは砂地獄から抜け出た。遭難は免れた。砂漠で遭難した無知な大学教授として、カイロの日本大使館で謝らずに済んだ。ほっとした。

 この経験からその後2回T先生とリビア側のサハラ砂漠で岩絵の採集調査を実施した際には、ランドクルーザーを2台用意した(そして衛星電話も)。サハラ砂漠の本丸に攻め込んだこともあり、毎日のように砂漠の砂にスタックしたが、そんなときはもう1台の車にワイヤーを繋いで引っ張ったりして乗り切った。

 やはり鉄則は守るべきだと痛感したことを覚えている。人の忠告には耳を貸すべきだ。当たり前なのだがどんな規模の砂漠でも侮ってはいけない。まともにやりあっても人間は自然に勝てないのだ。リビア側のサハラ砂漠を大サハラ、あるいは「砂の海」と呼ぶのなら、エジプト側のサハラ砂漠は小サハラ、あるいは「砂の池」程度だ。その砂漠の池で我々は溺れそうになったのだから。

 この話を書き始めた本日3月29日の夜に帰宅すると自宅にイチゴ(Ichi-Rin 苺禀の越後姫)が1箱届いていた。誰からだろうと宛名を確認すると砂漠友達であるN大学のT先生であった。こういうのを「虫の知らせ」というのであろうか。あれからサハラ砂漠には行っていない。