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マウンドに翔平、打席にトラウト

 マウンドに翔平、打席にトラウト。満員のスタンドの興奮は頂点に達しています。世界中の野球ファンが、固唾を呑んでこの瞬間を見つめていることでしょう。

 WBC2023ファイナルのクライマックスで、この大会を象徴する2人のプレーヤーが対決する。これは栗山監督が信じる「野球の神様」が、栗山監督のために用意した最高のプレゼントなのだ――僕はそう思って、疑いませんでした。野球のために、野球の未来のためにすべてを捧げてきた栗山監督の人生。すべてはここにつながっていたんだと、そんなことを考えていました。

 フルカウントから大谷が投げたスイーパーが外角へと大きく曲がり、トラウトのバットが空を切りました。翔平がグラブを、帽子を放り投げて感情を爆発させると、選手たちがわれ先にと一斉に駆け寄りました。

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 僕はベンチ下で栗山監督と握手をしました。栗山監督とはこれまで何度も勝利の握手をしてきましたが、海を越えてマイアミの球場で栗山監督から力強く手を握られたとき、運命の不思議さを感じないわけにはいきませんでした。

©文藝春秋

僕の人生に大きな影響を与えた栗山英樹という人

 実は、栗山英樹という人が僕の人生に大きな影響を与えたのはプロ入り前、僕が19歳のときでした。

 その頃、僕は野球から遠ざかっていました。推薦で進んだ大学を中退し、将来への展望を完全に見失って、これからの人生をどのようにすればいいのかわからず、フラフラと漂っていた時期でした。

 そんなときに出会った1冊の本。それは、栗山監督が現役時代に著した『栗山英樹29歳 夢を追いかけて』という本でした。

 どういう経緯でその本にたどり着いたのか、今でははっきりと思い出せませんが、何気なく読み始め、読み進めるうちに、もう一度野球がやりたい、プロ野球選手になりたい……静かに、その思いが湧き上がってきたのでした。

 諦めずに夢を追いかけることの大切さを教えてもらった、まさに僕の「人生を変えた1冊」でした。

 それからおよそ30年。栗山監督に導かれ、こうして一緒に世界一を摑み取りました。もしも栗山英樹という人物と接点がなかったら、僕はプロ野球選手になっていません。 

 当然、コーチになることもなく、今この場にもいません。運命とは本当に不思議なものです。(#2に続く)