先発して完投するか、クローザーとして登板するか
もしもあのとき、栗山監督がファイターズの監督でなかったら、大谷翔平という逸材が日本プロ野球で活躍する姿はありませんでした。おそらく、世界を驚かせ続ける「二刀流」に取り組むことも、その道を究めようと継続することもなかったでしょう。今日のShohei Ohtani の姿はなかったはずです。
2人がどれほど強い信頼で結ばれているか、どれほど強い絆で結ばれているか、外からはわかりません。でも、それが普通の「監督と選手」の関係性でないことはわかります。栗山監督にとっての「特別な投手」は、大谷翔平以外にあり得ません。
ただ、WBCの優勝決定の瞬間に翔平がいるためには、先発して完投するか、クローザーとして登板するかしかありません。
第2回大会ではダルビッシュがリリーフに回り優勝投手なっているので、それはありそうです。でも、二刀流でチームを引っぱる翔平に、クローザーまで務めさせるのは現実的ではないようにも思えました。
いや、それでも栗山監督が優勝シーンとして思い浮かべるとしたら、翔平以外にはあり得ないだろうなと思ったのでした。
「アオダモの木を植えようよ」
栗山監督が侍ジャパンの監督に就任する少し前、僕は北海道栗山町の「栗の樹ファーム」へ栗山監督を訪ねたことがありました。
栗山監督が私財を投じて造った栗の樹ファームは、まさに日本の『フィールド・オブ・ドリームス』。緑豊かな敷地に造られた少年野球グラウンドがあり、傍らのログハウスには、大谷翔平をはじめとするスター選手たちの用具が展示されています。野球への愛情が満ちあふれる場所でした。
そこで野球の話をたくさんしたのですが、栗山監督が思い出したかのように「アオダモの木を植えようよ」と言いました。
バットの材料として知られるアオダモ。でも、そうなるまで育つには約60年という時間を要するのだそうです。
僕は栗山監督と一緒にスコップで穴を掘り、自分がこの世にいなくなったずっと後にバットとして活用されるアオダモの苗を植えました。
栗山監督は、いつでも野球の未来のために自分ができることを考えているのだと、あらためて思い知りました。