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裕次郎が「いまから京都に行くか」

 大スター同士、2人の飲み方は豪快で時には羽目を外すこともあったという。だが、酒の強い小林はどんなに飲んでも人前で泥酔することはなく、裕次郎も酒に飲まれることはなかった。

「ある日の夜中、銀座で2人で飲んでいた時のこと。互いに次の日が休みだと分かると、裕次郎が『いまから京都に行くか』と切り出すんだ。それぞれ自分の車に乗って、東海道をダーッと走ったよ。もう時効だから言ってしまうけど、ボトルの2本や3本は空けた後だった。

 一睡もしないで走り続け、やっとのことで京都に着いたのが朝6時過ぎ。先斗町にある行きつけの店に行ったはいいが、玄関の柱に車をぶつけてしまった(笑)」

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小林旭氏 ©文藝春秋

萬屋錦之介と勝新太郎が合流して「バカ野郎、この野郎」

 その後、萬屋錦之介と勝新太郎が合流して、京都の名立たるお茶屋でスター4人の大宴会になったという。

「勝っつぁんが三味線を弾きはじめ、萬屋の謡が始まる。みんな芸達者だからすごいもんだよ。裕次郎は箸でリズムを取ってトントコトントコ太鼓のように叩いてた。

 俺は一番年下だから、しゃしゃり出るようなことはしない。次の店に行こうとなって、芸者さんたちを引き連れて花見小路を歩くときも、一歩下がって後ろから眺めてた。

 周りもまさか裕次郎や勝っつぁんがいるとは思わないんだろう。すれ違いざまにあっと気づいた時の目ん玉ひん剥いて驚く顔が面白くてね。結局、人垣が出来ちゃうんだけど、誰も気にしない。3人が『バカ野郎、この野郎』なんて並んで歩くのを見るだけでも愉快だったな」

 ほかにも、浅丘ルリ子や三國連太郎、宍戸錠など、昭和のスターが大勢登場する小林氏の銀幕エピソードは、まばゆいばかりの昭和の映画界を描き出す。「小林旭 回顧録」第1回は2023年5月10日(水)発売の月刊「文藝春秋」6月号と、「文藝春秋 電子版」(5月9日公開)に掲載される。

文藝春秋

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