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耳と鼻から出血…ひどい犯行の一部始終

 起訴状や冒頭陳述から、事件のあらましが分かった。被告人が暴力を振るうため、交際相手の女性から別れを切り出されたのだそうだが、彼には未練があった。その後も何かと連絡を取りたがり、事件前日も女性の働くバーに赴いたうえ、別れを切り出されているのに彼氏気取りで、こう尋ねた。

「何時に終わるの?」

 女性は当然、冷たい。質問にも答えてはくれなかった。不機嫌になり店を出ていった被告人に不安を覚えた女性は、仕事終わりに店長に自宅まで送ってもらうと、そこに待っていたのはやはり被告人だった。女性は、店長に帰ってもらったあと、被告人に告げたという。

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「私を彼女みたいに言うのやめてよ! もう怖いから帰って!」

 これに激昂した被告人は女性の首を掴んで持ち上げた。抵抗できない女性は失神してしまう。床に下ろすとふらついていたが、まだ激昂しているのか、被告人は女性の右肩を掴み、後ろに突き倒した。

 女性を起こして部屋まで一緒に入ってゆき、女性の子供たちと眠っていると上の子に起こされた被告人。見ると女性は吐いており耳と鼻から出血していた。救急車を呼び手当を受けたが頭蓋底骨折などによる全治3ヶ月の重傷を負い、公判当時も難聴が治らず、右の顔面麻痺、精神障害、記憶障害などの障害が残っていた。かなり酷い犯行態様である。

2009年9月、初めて裁判員裁判が開かれた大阪地方裁判所第201号法廷。上段中央が杉田宗久裁判長(当時)。覚せい剤密輸事件の公判 ©時事通信社(代表撮影)

「それ、朗読してもらえますか!」

 冒頭陳述、証拠調べの間、どんどんと仏頂面になっていった杉田裁判官は、被害者である女性の調書読み上げを時間短縮のため省略しようとしていた検察官に「それ、朗読してもらえますか!」と強く言った。

 裁判の時間は限られている。その時間内にあらかじめ決めておいたところまで進めようとする裁判官のほうが圧倒的に多い中、杉田裁判官は、それよりも調書を法廷で読み上げることを優先した。まずこれにとても驚いた。珍しいのだ。被告人のやったことを、しっかりと本人に理解させたいとの思いか。女性の調書によれば被告人は普段から些細なことで激昂し、手を出すが、気持ちが落ち着いたら謝罪してくる、そのうえ別れを切り出しても自殺を仄めかしてくる、という典型的なDV彼氏だったことがわかった。

 調書の朗読指示に加え、被告人質問でも印象的なことがあった。弁護人からの質問ののち、どう考えても次は検察官からの質問に入るのだが、杉田裁判官はなんとそこに割って入り、質問を始めたのである。もはや検察官の質問も待てない状態なのか! ものすごく驚いた。ここまで熱心な裁判官にはなかなかお目にかかれない。傍聴席でのメモにも熱が入る。