文春オンライン

「なにとぞ執行猶予を」被害女性は耳と鼻から出血…再犯のDV男をぬか喜びさせない名物裁判官が放った“衝撃の一言”

2023/08/24

genre : 社会, 働き方

note

 刑事事件の裁判傍聴歴19年というライターの高橋ユキさんは、かつて気になる裁判官や検察官の法廷を一日中傍聴するようなこともあったという。歴代でもっとも印象に残っているという大阪地裁の“ある裁判官”について綴った、「現代思想」(2023年8月号)への寄稿「『無名』の裁き その隙間で見るもの」の一部を抜粋して掲載する。

◆ ◆ ◆

刑事裁判の傍聴を始めて19年目

 刑事裁判の傍聴を始めて19年目になる。傍聴マニアがこうじて、ライターになった。現在私は、主にウェブメディアで事件や刑事裁判の記事を書いているが、取材でなくとも、時間があれば裁判所で傍聴し、顔見知りと意見交換したりする。つまり今でも傍聴マニアである。

ADVERTISEMENT

 私が主に傍聴するものは殺人等の凶悪事件であり、これは現在、裁判員裁判対象事件となっている。裁判員裁判では多くが短期間の集中審理。朝の10時から休廷を挟みながら夕方まで、というスケジュールで1週間続いたりする。法廷でやりとりを聞いていると最近では“量刑分布グラフ”なるものが存在するらしく、検察官が論告の際、これをもとに量刑を検討したうえ、被告人に対して求刑していたりもする。たとえば被害者の人数や、凶器、そして殺害方法などで条件付けすれば、過去の同種事件の量刑分布が一覧できるという具合のようだ。裁判所が量刑を決める際にも、これを元に検討がなされる。判決言い渡しの時にも、よく耳にする。

東京地方裁判所 ©文藝春秋

 グラフをもとに検討するというスタイルがいつからか主流になった裁判員裁判では、正直、裁判官の個性をなかなか見出しづらい。裁判員裁判“非”対象事件のほうがいくぶん、裁判官の人柄が滲む場面が多いように思える。

「杉田裁判官の法廷を見たほうがいい」

 かつて、朝から夕方まで裁判所にいた頃は、傍聴したい事件がなくとも、気になる裁判官や検察官の法廷を一日中傍聴するようなことをしていた。質問が味わい深かったり、またはとりわけ厳しかったり、あるいは終始機嫌よく進行していたりと、同じ法服を着ていてもキャラクターが滲み出る裁判官はいる。その中で最も印象に残っているのは、私のホームである東京地裁ではなく、大阪地裁の裁判官だ。

 2008年1月に大阪地裁に行ったとき、傍聴マニアが口を揃えて言った。

「杉田裁判官の法廷を見たほうがいい」

 当時、第七刑事部統括判事だった杉田宗久裁判官のことである。なぜ皆が推すのか、色々聞く前に見たほうが早い。早速法廷に行った。

 事件は傷害罪の新件。被告人は保釈されており、長身にスーツを着ているが、髪はかつてのバンドブームの若者の如く、ヤンチャに逆立っていた。ムスッとした顔で長椅子に座っている。開廷時刻になり法廷に現れた杉田裁判官は、なぜか被告人に負けず劣らずの仏頂面だった。第一印象は怖そうである。