「大切なものが欠落している」キャラクターが気になる
視聴者が待ち望んだ夏のキラキラ月9ドラマに、制作陣の気合いもひとしおだろうが、回を重ねるごとに、世間からはTwitter実況映えする“ツッコミドラマ”として認識されていった。なにがそんなにおかしいのかというと、感情移入できる人が誰一人としていないどころか、日常生活を滞りなく送れているのだろうかと心配になるほど、大切なものが欠落しているキャラクターがいる。
その筆頭が、夏海の幼なじみ・匠(神尾楓珠)だ。海が似合う爽やかな大工で、毎回似たような服を着ている。恩師(桜井ユキ)への恋心を自覚しており、夏海を「女として見たことない」とこっぴどく振ったにもかかわらず、その翌週に無理やりキスをした行動原理が不可解な男だ。
夏海と健人が仲良くなることが気に食わないのか、他に好きな人がいる自分を棚に上げて、たびたび二人につっかかる。「住む世界が違う都会の男」と「気心知れた地元の男」として対比させたいのだろうが、いまから見た人にでもわかるくらい匠に勝ち目はない。
さらに、毎週物議を醸しているのが研修医の修で、本当に余計なことしか言わない。健人と同じく東大出身で、夏海たちや東大卒ではない守のことも見下している。
毎回心ない一言で周りだけではなく、視聴者もドン引きさせる修だが、第4話ではライフセーバー兼小児科医の宗佑(水上恒司)に「どうみても出世コースから外れてる」と絡み、さらに夏海の弟を見て「バカを擬人化したような弟だな」「母親がいないとやっぱあんな子供に育つのか」と悪態をついたため、さすがに愛梨からビンタを喰らわされていた。
他人を傷つけようとしているのではなく、修は他人の心が分からない気の毒な人で……というフォローも入ったが、それを踏まえても視聴者の心は戻ってこないだろう。
女性陣に求められる“母”としての姿
想像していた月9とは違えど、毎週スマホを片手に楽しめる作品であれば良かったのだが、どうしても見過ごせないのが、今作の古すぎる“男女観”だ。
公式サイトでは、ドキドキワクワクを詰め込んだだけの恋愛ドラマではなく、通常なら交わるはずのない住む世界の異なる男女が(東京ー湘南間ならばいつか交わる気もするが)、目には見えない“格差”を乗り越える話だともいっている。しかし今作において、匠を除く男性は「都会住み」で「頭が良く」て「格好良く」て「世間が認めるエリートコースを歩んでいる」のに対し、女性は「田舎住み(湘南を田舎と位置付けるかは謎)」で「そんなに頭も良くなく」て「世間知らず」な存在なのである。
ならば、夏海をはじめとした女性たちに、今作はなにを求めているのだろうか。それは“母”なのだと思う。
幼い息子を育てるシングルマザーの理沙はもちろん、父と弟と同居する夏海もまた、母親の役割を求められている。たとえば第1話では、朝早くから台所に立ち、糠漬けをつけて、父たちの朝食とお弁当をつくり、彼らの洗濯物をそれぞれ分けて、小さなおにぎりを頬張りながら家を出る夏海の姿があった。さらに、高校生の弟・海斗が彼女を妊娠させてしまったことが発覚した第4話では、夏海の“母親業”が色濃く描かれている。