筆者の自宅は川崎市多摩区にある。川崎は横浜の隣だけど、多摩区や麻生区といった市の北部からハマスタは結構遠く、東京ドームや神宮の方がサクっと行けてしまう。とはいえ近年は夜10時頃に登戸駅に降り立つと、南武線から小田急線に乗り換えんとするハマスタ帰りのベイファンを数多く見かけることがあり、「長い帰り道お疲れさまです! ナイスゲーム!」と声をかけそうになってしまう。10年前にはあり得なかったそんな光景にも、神奈川全体のベイスターズ人気の広がりを感じるのだ。
多摩区で気軽にプロ野球を楽しめるのが巨人のファーム本拠地、ジャイアンツ球場。たまに家の近所でベイスターズの球団バスと遭遇することがあり、その日試合が行われるのを知るわけだが、それは大抵朝の9時頃。改めてファームの朝の早さに気づかされるのである。
そんなジャイアンツ球場で8月27日、同球場では今シーズン最後の巨人vs横浜DeNA戦が行われるという。その日一軍は同時刻にバンテリンドームで中日戦だったが、シーズンラストとなれば近所にやってくるベイスターズを感じたい。久しぶりに丘の上の球場へと向かった。
ルーキー松尾は噂通りの大物だった
京王よみうりランド駅近くのパーキング(24時間500円)にクルマを停め、土日祝限定の無料送迎バスで「よみうりV通り」と呼ばれる坂道を上る(もうひとつの駅から球場への階段ルート「巨人への道」は倒木で通行止め)。球場入口から三塁側の客席へ向かうと、途中にあるサブグラウンドでおそらくジャイアンツの三軍選手だろうか。懸命にノックを受けている。どこのファンとか関係なく、選手の練習する姿にはつい見とれてしまうのだ。スタンドからも見える関係者通路には、桑田真澄ファーム総監督が普通に歩いている。
夏のデーゲームは言うまでもなく暑さとの戦いである。しかし高台にあるこの球場は涼しい風が吹き抜けるし、かき氷などが買える売店もファームの球場としては充実している。屋根付きのキッチンカーエリアでは試合前に涼むこともでき、客席の片隅にはミスト扇風機も。さらにありがたいのが氷嚢用の氷が提供されていること。備え付けのビニール袋にスコップで氷を入れ、頭や首にあてがえば直射日光浴びまくりのスタンドでも耐えられる。このあたりのホスピタリティはさすがで、この日の観衆1,700人超えも納得だった。
グラウンドに目を向けると試合前のメンバー表交換の最中。ベンチから出てきた仁志敏久監督は真っ黒に日焼けしてかつての僚友、二岡智宏監督と挨拶を交わしていた。その焼けっぷりからは、追浜のグラウンドに降り注ぐ太陽の下、若手を指導する熱血監督の姿が想像できる。
試合開始直前、バックスクリーン裏にあるブルペンから先発マスクを被る松尾汐恩と鶴岡一成コーチがベンチへ戻ってきた。初めて見る松尾くんの笑顔は実に爽やかで、時折覗く白い歯におじさんもついウットリしてしまう。その傍らで鶴岡コーチは2リットルのペットボトルを顔に当てて暑さをしのいでいた。後ろからは先発投手の2年目・深沢鳳介と大家友和コーチ。口髭を蓄え、すっかりイケオジになった大家コーチの姿に、30年近く前、長浦のグラウンドで見た背番号56、期待の高卒ルーキーの姿がオーバーラップする。
ルーキー松尾は噂通りの大物だった。プレイボール時には球審と二言三言会話してから守備につき(遠くからでも白い歯が見える)、イニング間にはすぐさま深沢に駆け寄っていく。7月のジュニアオールスターで巨人二岡監督とずっと会話している姿がテレビに映ったが、19歳にしてこのコミュニケーション能力はすごい。この日は深沢が4回まで零封。5回に不運な打球や微妙なボール判定もあって4点を失ったものの、平良拳太郎ばりのサイドハンドから投げる球も、緩急織り交ぜた松尾のリードも悪くはなかった。数年後にはハマスタで2人のバッテリーを見てみたい。