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本命が負けた外務省

 8月までずれ込んだ外務省の次官レースが決着しそうだ。森健良事務次官(昭和58年)の後任に岡野正敬内閣官房副長官補(62年)が就くことが決定的となった。本命とされた山田重夫外務審議官(61年)は駐米大使となる。今年3月の岸田首相のウクライナ電撃訪問で尽力したほか、広島サミットにおけるゼレンスキー大統領の来日も仕切った山田氏。「次官になれなければ省内全体のモチベーションに関わる」(中堅幹部)とされたが、及ばなかった。岡野氏の後任には市川恵一総合外交政策局長(平成元年)が就く見通しだ。

 これまで、岡野氏と山田氏のレースは、秋葉剛男国家安全保障局長(昭和57年)の意向に左右されると言われてきた。来年での退任を希望していた秋葉氏は、自身の後任として岡野氏を挙げていた。そのため、岡野氏に1年間、次官を経験させた上で、国家安全保障局長にするプランが練られていたのだ。

 だが蓋を開けてみれば、今回の人事は岸田首相の強い意向で決まったという。どういうことか。山田氏は茂木敏充幹事長との関係も深い。岸田氏は「茂木の手足を縛るため」と周囲に説明し、山田氏を駐米大使に就ける人事ありきだった。いわば、消去法で岡野次官が誕生したのだった。

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茂木敏充氏 ©文藝春秋

 次官人事の陰で、「外務省はくも膜下出血に呪われている」と話題に。6月15日、内閣官房内閣参事官の八塚哲(やつかさとる)氏(平成8年)が病院に緊急搬送されると、くも膜下出血と診断。その翌週、亡くなった。国家安全保障局経済班長も務めた安全保障政策のプロフェッショナルだった。外務省は令和3年だけで、和田幸浩官房総務課長(5年)、飯田慎一経済局審議官(2年)、ロシアの首都モスクワの病院で宮本哲二在ロ日本大使館公使(政務担当・5年)が亡くなったが、いずれも死因はくも膜下出血だったのだ。

 外務省は全職員に対し定期的に脳ドック(MRI検査)受診の奨励を通達する一方で、6月15日付で八塚氏を外務省に戻していた。これは、退職金等が出向先より本省の方が多いため。官房人事課が官房長に上申して、森次官が秋葉氏と諮って発令に至った。外務省絡みでは最近聞かない、「ちょっといい話」である。

霞が関コンフィデンシャル」全文は「文藝春秋」2023年9月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。