一貫して選手たちの主体性が尊重される環境だが、そうした慶応の風土は森林監督が独自に生み出したものではない。安倍氏がつづける。
「かつて慶応大学野球部の監督をされていた前田祐吉さんが、“エンジョイ・ベースボール”を掲げてアメリカの野球の考え方を取り入れ、選手たちと試行錯誤を重ねながら、慶応独自のスタイルを醸成してきた歴史もあるんです。前田監督のもとで野球を学び、出ていった慶応のOBたちが今指導者になっています。上田誠慶応高校前監督や、現在の堀井哲也慶応大学野球部監督、社会人野球・ENEOSの大久保秀昭監督もその一人です」
「選手たちを指揮する森林監督の姿は、まさに“慶応幼稚舎の森林先生”」
自身も慶応高校野球部出身の森林監督は、1992年に慶応大学に進学するも野球部には入部せず、母校で学生コーチとして指導に携わっていた。その後社会人経験を経たのちに2002年から慶応義塾幼稚舎の教諭に。2015年に慶応高校の監督に就任してからは、小学校の先生と高校野球の監督の「二足のわらじ」を履いている。前田前監督が築き上げた“エンジョイ・ベースボール”の精神のもとで野球を学び、受け継いだ森林監督は、さらに次世代へと“知の力学”のバトンを繋ぐ。
「選手たちを指揮する森林監督の姿は、まさに“慶応幼稚舎の森林先生”として私の目に映っています。子供が校庭で楽しそうに遊んでるのを、喧嘩しないか、ケガしないかとハラハラ見ている。だから笑ってる余裕はないんですよ」(同前)
“心身の独立を全うし、自らのその身を尊重して人たるの品位を辱めざるもの、之を独立自尊の人と云う”――創立者・福沢諭吉が『学問のすすめ』で説いた「独立自尊」の精神が、栄光への架け橋となったのか。
8月22日(火)12時配信の「週刊文春 電子版」および8月23日(水)発売の「週刊文春」では、森林監督が甲子園の熱き戦いの中で放った清原勝児選手をめぐる発言とその背景、さらには決勝で惜しくも敗れた仙台育英の須江航監督のイマドキな「言葉学」についても取り上げている。