打者での出場を続けることに問題は?
専門家は大谷の怪我をどのように見ているのか。ベースボール&スポーツクリニックの馬見塚尚孝医師が語る。
「靱帯損傷には軽い部分損傷と重い完全損傷とがあります。大谷選手に関しては映像を観る限りあまり痛くなさそうで、次の試合にもバッターとして出場したので比較的軽い損傷で済んでいるのではないかと思います。
靱帯損傷に対する治療法としては大きくPRP療法を含む保存療法(患者の自然治癒能力を高めて、細胞の再生速度を上げる方法)とトミー・ジョン手術の2つの選択肢があります。仮に損傷が軽く前者を選んだ場合、早ければ来年の春には復帰が可能です。しかしトミー・ジョン手術を受けるとすると彼の場合は2回目の手術のため1年半~2年ほどかかることになります。その場合投手として復帰できるのは2025年の春以降になります」
今後も「打者・大谷」として出場し続けるのは問題ないのだろうか。馬見塚医師が続ける。
「過去の統計データから、比較的軽い損傷でも一度右ひじ靱帯を痛めた人がバットを強く振った際に、靱帯損傷の程度が悪化したという事例は少なからずあります。大谷選手の場合も全く影響がないかと言われると、そうとは言い切れない。ただし彼の場合は研究者から言わせれば『外れ値』です。並のメジャーリーガーなどの統計と比べることはできません。
もう少し詳しく言うと、バットを振る際に、肘を返すスイングをした時には靱帯に多少負担がかかります。ただし大谷選手の場合は基本的にアッパースイングですから、肘への負担は少ないと考えられます。
日常的に投球動作を行うピッチャーに掛かっている肘への負担を100とすると、投球動作を一切しない場合、9割程度は肘への負担が軽減されます。もちろんバッターとして出場し続けるなら残りの1割の負担はかかりますが、負担がかかっているからといって、必ず損傷が悪化するとは限らない。大抵の選手は、大事をとって今シーズン全休という選択肢もあるかもしれませんが、私はそこを乗り越えるのが大谷翔平ではないかと思っています」