「あの通訳さんは誰?」「通訳さんについて教えてください」
ファイターズでもマルティネス選手の人気はどんどん上がっていった。特に子供たちがスタンドで名前入りのタオルをあげているのを多く見るようになった。いつの時代も野球ファンの子供は体が大きくてたくさん打つ外国人選手が大好きだ。そして私たちにはマルティネス選手がお立ち台にあがるごとに気になる人物が現れた。私は北海道のHBCラジオでファイターズの応援番組を担当している。マルティネス選手がヒーローになると「あの通訳さんは誰?」「通訳さんについて教えてください」「素晴らしい通訳で感激した」という内容のメッセージが何通も届くようになった。
ファイターズのスペイン語通訳は20代の高橋佳佑さん。スペイン語圏に留学経験もあり、今年からファイターズのスタッフになられた方だ。高橋さんの声は元気で大きい。歯切れもいいのでファンの心にズンズン響いてくる。声質がちょっとハスキーなのがまた耳に心地いい。声が大きいけれど決して一辺倒な話し方ではなく、抑えるところはゆっくりと控えめに、最後のフレーズで「!」がいくつもいくつも付くくらいの音量と絶秒な言い回しで締めくくる。それがスタンドからの大きな歓声と拍手に繋がる。
リスナーさんからのメッセージに応えて、HBCラジオのスタッフが試合前の空き時間に高橋さんに話を聞いてくれた。快く応じてくださった高橋さんのこの言葉が忘れられない。
「どんな時も彼らが日本を選んでくれたことに敬意と感謝を忘れずにいるようにしています」
通訳さんの仕事はヒーローインタビューだけではもちろんない。練習・試合中はもちろんのこと、その他にも日本での生活をケアする場面も多くある。
今季、ファイターズにはスペイン語が母国語の選手は4人。ドミニカ共和国出身のブライアン・ロドリゲス投手、アリスメンディ・アルカンタラ選手、アレン・ハンソン選手、そしてキューバ出身のアリエル・マルティネス選手。通訳を介さなくても話せる相手がこれだけいるのはのびのびとしたプレーに繋がっただろうし、もし何か心配事が起きてもこんな風に自分たちを思ってくれている通訳さんの存在はどれだけ心強いことだったろう。
高橋さんの通訳にはこんな場面がたくさんあるように感じる
マルティネス選手は9月13日、エスコンでのバファローズ戦でもお立ち台に上がった。その時に、とても重要なことを話した。ファイターズ1年目の今年はいかがですか?とインタビュアーからの問いかけ。高橋さんがそれを伝えると、頷き丁寧に言葉を選んで話す様子のマルティネス選手。高橋さんの通訳をそのまま文章にすると、
「とてもいい1年になっています。やっぱりファイターズでプレーするのは本当にいいと思っていますし、今年だけじゃなく将来、長―――――く、ファイターズにいられたらと思います!! この球場でこのファンの皆さんの前でもっといいプレーが出来るように将来を見据えながら頑張っていきます!!」
長―――――く、ここは本当にこんな風に伸ばして話していた。マルティネス選手がそう伸ばしたのか? いやきっと、これが高橋さんの通訳力。高橋さんの通訳にはこんな場面がたくさんあるように感じる。
あの時の拍手と大歓声が頭の中でまた聴こえる。この時期は外国人選手の来季の去就とモチベーションが気にかかる。今までこうして直にファンに伝えてくれた選手はいただろうか。助っ人と呼ばれる外国人選手。結果を残して当たり前と言われる外国人選手。そこに寄り添う通訳さんは彼らとファンを繋いでくれる架け橋だ。ひとこと、ひとことを大切に受け取りたい。
◆ ◆ ◆
※「文春野球コラム ペナントレース2023」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/65339 でHITボタンを押してください。
この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。