2023年シーズン最大の「不思議な感情」とは?

 東京ヤクルトスワローズの2023年シーズンがあっけなく終わった。一昨年は、あと数日で師走が訪れるという時期に、「ほっともっと」とは名ばかりの極寒のスタジアムで12球団のトップに立つ瞬間を目撃した。そして昨年も、10月末の神宮球場の片隅で寒さに震えながら、日本で行われる最後の決戦を見届ける幸運に恵まれた。しかし、今年は10月の声を聞くとともにポッカリと空白期間ができてしまったのだ。

 まだシーズン終了直後の余熱が残っているので、冷静に振り返ることもできていないけれども、「こんなはずではなかったのに……」という、悔しさと無念さに彩られた鬱屈した思いだけが強烈に、僕の胸の内には息づいている。

登板数13、先発12

 その思いは、プロ22年目、43歳となった石川雅規もまた同様だろう。21年シーズンから密着取材を続けて、今シーズンで3年目を迎えた。この間、いいことも悪いこともあった。それでも、彼は淡々と投げ続け、たとえ抑えても、たとえ打たれても、自分のピッチングを冷静に振り返ってくれた。

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 今季の石川は13試合に登板して2勝5敗、防御率は3.98という成績に終わっている。長いキャリアにおいて、「シーズン2勝」という結果は、2020年に次ぐ自己最少記録だ。ここ数年同様、今季の石川も、先発しては投げ抹消を繰り返し、登板機会はわずかに13試合しかない。注目したいのは、その内訳だ。登板数13のうち、先発は12となっている。つまり1試合だけ、彼は中継ぎ登板をしているのである。

 そして、この1試合こそ、23年シーズンにおいて、僕にとって忘れられない「不思議な試合」なのだ。それは7月6日、横浜スタジアムで行われた対横浜DeNAベイスターズ戦、石川はこの日二番手として3回裏からマウンドに上がっている。

 これまでずっと先発にこだわり続け、「投手である以上、先発完投を目指すのは当然のこと」と公言してきた石川が、2番手としてマウンドに上がったのである。この日、僕が感じた「不思議な感情」を何と表現すればいいのだろう? 今でもこの日の映像を見ると、何とも言えないざわざわとした感情が胸の内に沸き起こる。あれから3カ月が経過した今も、その思いは何も変わっていないのだ……。

石川雅規 ©時事通信社

5回を投げ、「自責点0、失点3」で敗戦投手に

 これまで取材を続けていて、石川が抱えている「先発マウンドへのこだわり」は相当なものだと感じていた。「中継ぎ投手を否定するわけじゃないけど……」と前置きした上で、「自分は先発マウンドにこだわり続けたい」と言い、「それができなくなったときには、ユニフォームを脱ぐとき」というニュアンスの言葉を続けている。

 さて、改めてこの日の試合を振り返ってみたい。先発マウンドに立ったのは、今季16試合目の登板となる丸山翔大。今年の4月に支配下登録されたばかりで、もちろんこれがプロ初先発となる。後に、髙津臣吾監督、伊藤智仁ピッチングコーチは「当初から2番手に石川への継投を考えていた」と語っている。丸山は2回を投げて2安打無失点で切り抜けた。首脳陣の意図を考えれば文句のないピッチングである。

 そして、3回表にヤクルトは1点を先制する。ここでマウンドに上がったのが石川だった。後に「事前にこの回からマウンドに上がると決まっていたわけではない」と語っているが、3回裏は三者凡退で抑える上々の滑り出しだった。4回裏は2安打を喫し、1四球を与えたものの、ここも無失点で切り抜けた。この回は石川の投じたボールが捕手・内山壮真の防具に挟まる「暴投」も記録した。そして、問題の5回裏が訪れる。

「石川に違う刺激を与えた」「そうそう頻繁にはこんな作戦はやらない」

 この回、ヤクルトは1イニングで2つのエラーを記録し、3点を失ってしまった。その後、石川は7回まで、計5イニング88球を投じてマウンドを降りた。失点は5回裏の「3」だったが、2つのエラーが絡んでいたため、自責点は「0」。一方のヤクルト打線はバウアーの前に沈黙、2対3と惜敗した。試合後、伊藤コーチはこんな言葉を残している。

「最近状態があまり良くなかったので石川に違う刺激を与えた。勝てる1番の方法として考えた。先発投手としては難しい入りの中、よく投げた。そうそう頻繁にはこんな作戦はやらない」

 これが、この日の試合の概略である。