F3レース史上初となる女性チャンピオンに輝いたJuju(17)。奇跡の逆転劇はなぜ生まれたのか?(全2回目の1回目/後編を読む)
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その時、父の雄叫びがこだました。
「チェッカーフラッグを受けた瞬間です。無線から『ウオオオオオッ』って。私は信じられないというか、実感が全然湧きませんでした。でも、号泣している母の姿を見て、父に抱きかかえられて肩車されて……そこでようやく、私、優勝したんだって」
野田樹潤(じゅじゅ)、17歳。”Juju”の愛称で親しまれているレーシングドライバーだ。わずか3歳でキッズカートに乗り始め、4歳にしてレースデビューを飾った。
「サッカー、バレエ、水泳と色々習わせてもらったんですけど、レースだけです。負けるのがものすごく悔しかったのは」と語る通り、マシンに乗ることを運命づけられていたような少女だった。
激しいGを全身に受けながらレースを終えても、息はほとんど乱れない。華奢な体躯からは想像もできないほどのエネルギーに満ちた走りで他を圧倒し、17歳以下が出場できるF3マシンクラスのレースでは全戦全勝。日本制覇を成し遂げた彼女は、2020年、14歳で世界への挑戦を決意した。
そして冒頭の勝鬨(かちどき)へ――。2023年7月、”F1の登竜門”ともいわれるF3レース「ユーロフォーミュラ・オープン」の第4ラウンド。そのレース1で、Jujuは誰よりも速い走りを見せた。F3の国際シリーズにおいて、史上初の女性チャンピオンに輝いたのだ。
試合前の予想は「トップ5に入れるかどうか」だった
「優勝できるなんて、欠片も思っていませんでした」
そう率直に述懐するのは、父の野田英樹だ。元F1ドライバーであり、現在はJujuが所属する「NODAレーシング」のチーム監督兼エンジニアを務めている。
「相手は絶対王者のモトパーク。これまで数々の強豪チームが挑んでは、為すすべもなく敗れ、レースから去っていきました。ましてや我々は総勢6名のファミリーチームです。マシンもJujuが駆るたった1台ですが、モトパークは6台体制。さらに経験値もスタッフ数も予算も桁がまるで違う。向こうはメカニックだけで30人ですからね」