生涯で2人に1人がかかると言われる「がん」。でも、知っているようで、知らないことも多いのではないでしょうか。そこでジャーナリストの鳥集徹さんに、素朴な疑問をぶつけてみました。参考文献として信頼できるサイトのリンクも紹介しています。いざというときに備えて、知識を蓄えておきましょう。
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A19 終わりではありません。近年は早期からサポートを受けるべきとされています。
みなさんは、「緩和ケア」という言葉にどんなイメージを持っているでしょうか。手の施しようのなくなった末期がん患者に対して、痛みを取るための治療だと思っている人が多いかもしれません。「緩和ケア医が患者のベッドに行くと、『棺桶屋』に間違えられた」という笑えない冗談を聞いたこともあります。
しかし、それは古い考え方です。近年では緩和ケアは「がんが進行してから」ではなく、「がんと診断されたときから」必要に応じて行われるものとされるようになっています。抗がん剤や放射線などの治療と並行しながら、緩和ケアチームのサポートを受けることも可能です。
がんになると痛みやだるさ、息苦しさといった身体的な症状だけでなく、不安感や気分の落ち込み、孤独感など精神的な症状も起こります。また、仕事ができない喪失感や人間関係などの後悔、「私は生きる価値のない人間ではないか」といった悩みも生じます。
その都度、つらくなったら緩和ケアチームによるサポートを受けていいのです。現実には、すべての患者の苦しみに応えられるほどの十分な態勢はまだないかもしれません。ですが、早い時期から病院の緩和ケア科や在宅緩和ケア診療所などに相談して、スタッフと関係をつくっておくことをお勧めします。
早くから緩和ケアを始めたら、積極的な治療を中止されて、命が縮むのではないかと心配する人もいるでしょう。ですが、こんなデータがあります。
2010年に米国の研究グループが進行肺がん(非小細胞肺がん)の患者を対象に、通常の治療を行うグループと、早期から緩和ケアを受けるグループとを無作為に分けて比較する研究を行ったところ、後者のほうが2.7ヵ月長生きしていたのです。しかも、早期に緩和ケアを受けたほうがQOL(生活の質)はよく、抑うつ状態も少ないという結果でした(N Engl J Med 2010; 363:733-742)。
また2015年にも、診断からすぐ緩和ケアを受けたグループと診断から3ヵ月後に緩和ケアを開始したグループを比較したところ、すぐに緩和ケアを受けたグループのほうが1年後に生存している割合が高かったという結果が、米国の研究グループから報告されています(J Clin Oncol. 2015 May 1;33(13):1438-1445)。
緩和ケアの研究はまだ十分ではなく、これらの研究だけで「早く緩和ケアを受けたほうが長生きできる」と断言はできません。しかし、がんに伴う苦痛を和らげることで、日常生活でできなくなったことが、再びできるようになることも少なくないと聞きます。がん患者が希望を持って療養するためにも、緩和ケアの力を利用して損はないはずです。
【参考】国立がん研究センターがん情報サービス「がんの療養と緩和ケア」