それまで正社員だった美津子さんは、新型コロナ感染症拡大の最中に人員削減のため、会社都合により解雇されてしまった。正社員として働きたくても再就職先はなかなか見つからなかった。
現在は派遣社員として仕事をしており、年収は250万円ほどまで下がってしまったが、日本学生支援機構で審査される所得は、2年前のデータだ。そのため経済的に困窮しているにもかかわらず、「家計基準を満たしていない」という理由で不採用となってしまったというわけだ。
行政からフードパントリーを紹介されるが、十分な量は得られず
高野さんの場合、遺児を対象とする「あしなが育英会」の奨学金が、給付と貸与分を合わせて月に7万円口座に入る。そこから大学の寮費である4万円を差し引くと、食費や通信費、教材費、交通費等を3万円の中でやりくりしなくてはならない。通信費は安いプランを調べたり見直したりして工夫することで、月3,000円ほどに抑えることができた。
困難だったのは、食事の面だ。節約のために夜遅い時間になってからスーパーへ行き、おつとめ品や割引になった食材を購入して自炊をする。日中に売られている正規の値段のものは、高くて到底買えなかった。
食べ盛りの年齢にもかかわらず、お腹が膨れるまで食べることができない日が続いた。
何をどうすれば良いか、自分が今どういった支援に頼ることができるのかまったくわからず、手探りの生活に疲弊していたとき、一度だけ行政に相談をしたことがあった。社会福祉課に行き「何らかの支援を受けられないか」と尋ねると、毎月開催されているというフードパントリーを紹介された。フードパントリーとは、食に困っている人が受けることができる食糧支援活動のことである。
フードパントリーで乾麺、野菜、果物、缶詰などをわけてもらって少し生活の足しにはなったものの、それでも「十分な量」とは言い難かったという。しかしながら社会福祉課の窓口では、支援についてそれ以上のアナウンスはなかった。
食糧支援と月1万円の支給を受けることに
変わらず苦しい生活が続いたため、奨学金を借りている「あしなが育英会」に相談することも考えたが、貸与の奨学金を増額できる可能性はあっても少額であり、こちらも当てにはできなかった。大学卒業後に返済が待っている数百万円のことを考えると、気分が暗くなった。
どうにもならなくなった頃、母の美津子さんから「『ユキサキチャット』という支援を頼ってみてはどうか」と提案を受けた。「ユキサキチャット」とは、認定NPO法人「D×P(ディーピー)」が不登校や中退のほか、生活困窮する若者を対象に行っている支援事業だ。LINEで進路・就職の相談を受け付けており、親に頼れず暮らしている25歳までの人に食糧やお金を届ける「ユキサキ支援パック」というサポートも行なっている。