このように、ただでさえ経済状況が厳しい大学生に、今回のコロナ禍による影響がさらに追い討ちをかけた形だ。
大学生の貧困に関しては、これまでも多くの議論がなされてきた。直近であれば、特別な事情を抱えた大学生が、一時的に生活保護を受給する権利を求める署名活動(実際に受給が認められなかったケースでは、実家の虐待から逃れてアルバイトで生計を立てながら大学進学した生徒が、体調不良のために数ヶ月の休養が必要となった。そこで、一時的な公的支援を求めて役所の窓口を訪れたものの「大学は贅沢品です。まずは大学を辞めてから来てください」と門前払いをされてしまった)に対して非難の声が殺到。当事者たちに、心無い言葉が投げかけられた。
経済的に余裕のない家庭に生まれた子どもたちの「救済策」として現状、唯一機能しているのが日本学生支援機構などの奨学金制度であるが、高野さんの事例でもあったように、借り入れの審査で参照される家計収入は2年前にまで遡る。現在の生活状況が反映されていないばかりに、奨学金がなくては進学が難しい子どもたちであっても借り入れができないという齟齬が生じている。
若者から生活困窮の声は今でも多く届いている
生活困窮に陥っている若者への支援には、どのような課題や問題点があるのか。前述のような支援事業に取り組んでいる認定NPO法人「D×P」の広報・熊井香織さんにも話を聞いた。
「D×P」によれば、コロナ禍以前には692人(2020年3月時点)だった「ユキサキチャット」の累計登録者数が、コロナ禍に入って4,107件(2021年3月時点)まで激増。現在(2023年8月時点)は1万1,532件に達したという。
2022年度の相談内容の内訳は、食糧支援や現金給付の問い合わせが44.4%、不登校ひきこもりの相談が21%、進学相談が13.4%、退学や転学の相談が6.0%。中には、虐待被害の相談も含まれる。
「コロナの感染拡大から3年以上経ちました。もう落ち着いているのではないかと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、コロナの影響は今も続いてます。コロナ禍からの滞納の継続、借金、メンタルシック、さらに物価上昇もあり、若者から生活困窮の声は今でも多く届いています。
『ユキサキチャット』の相談者数も増え続け、相談内容が長期化・深刻化していることが課題です。高野さんのようにどうしても制度の狭間で取り残されてしまっている方もいますし、学生に対しての支援策がまだまだ不十分であると考えています。だからこそD×Pとして、食糧支援・現金給付をコロナ禍以降も継続することを決めました。
皆さんには、若者が抱えているさまざまな困難に関心を寄せていただき、現状について一緒に考えていただけたらと思っています」
※本稿に対し、独立行政法人日本学生支援機構から以下の指摘を受けました。
・日本学生機構の貸与型および給付型奨学金には、春(一次採用)及び秋(二次採用)に募集する定期採用と、年間を通じて随時募集を行っている緊急採用・応急採用がある
・今回の記事では、春の定期採用に関する判定方法のみが記載され、秋の定期採用や緊急採用・応急採用についての言及がなく、家計の直近の経済状況が審査で考慮される奨学金が存在しないような誤解を与える
・記事に書かれた家計急変状況から推測すれば、高等教育の修学支援新制度や緊急給付金支援事業の対象となり得た可能性も十分考えられる
奨学金事業への理解を深めるため、タイトルと本文の一部を修正のうえ、追記させていただきます(10月25日追記)。