家族がセーフティーネットとして機能するには、ある程度の数が必要だ。親2人に子供が1人か2人しかいなければ、諸事情でいざという時に頼りにならないことがある。
だからこそ、親としては家族の人数をできるだけ増やそうとする。子供の数が多ければ、その中の誰かしらが助けてくれるだろうという発想だ。彼らにとっては「子供の多さ=生活の安定」なのだ。それが早いうちに結婚してたくさん子供を作ろうとする理由だ。
親がコミュニティーの仲間同士で子どもを結婚させようとする
この延長で、親が自分の子供を傍に置いておくために早いうちに結婚を勧めたり、見合いを決めたりすることがある。
スラムで暮らす子供たちは、同じコミュニティーの子供たちとともにほぼ毎日を過ごす。コミュニティーの5家族に子供が20人いれば、彼らはきょうだいやのような感覚で一緒に遊び、ケンカし、競い合って成長していく。
思春期になると、彼らはコミュニティーの仲間同士で恋愛をするようになる。学校へ行っていない子供たちは人間関係が狭いので、その傾向が余計に強い。そんな時、親は子供たちに結婚を勧めたり、他の親と話し合って見合いをさせたりする。
親がそれをするのは、成長した子供をいつまでも傍に置いておきたいという思いがあるからだ。彼らがスラムを出ていってしまえば、自分にとってのセーフティーネットが揺らぎかねない。ゆえに、コミュニティーの仲間同士で結婚させようとするのだ。
バングラデシュのスラムでは、親が10代の子供たちの結婚を決めることが多かった。その時、通訳をしてくれていた現地の人はこう語っていた。
「この国では親が子供を誰と結婚させるのか決める力を持っているんです。スラムの人たちは、子供を友達の子と結婚させて、ずっと手の届くところに置いておきたいと考えています。どちらかといえば、息子より娘に対してそう願うことが多いでしょうね。それで娘が10代のうちに結婚を決めてしまうのです」
娘の方が息子よりも親を支えようとすることが多いそうだ。だからこそ娘の結婚に深く関与しようとするのである。