日本での結婚は、貧困から抜け出す手段か、生活レベルの低下か
途上国では、結婚は将来の生活を安定させるための手段となっている一方で、日本の若者は結婚に対して逆のイメージを抱きがちだ。
日本人は、憲法や制度によって最低限度の生活を保障されている。そのため、途上国のように結婚をセーフティーネットと捉える意識がなく、逆に「結婚をしたら生活レベルが落ちてしまう」と否定的に考えるのだ。
アルバイトで生計を立てている30代の男性は、次のように語っていた。
「今の年収は200万円ちょっと。1人で生きていくぶんには何とかやっていけるけど、結婚となると全然足りません。お嫁さんとの共働きの生活ならまだしも、子供とかできちゃったら200万円では育てることができないでしょ。つうか、お嫁さんを養うこともできない。だから結婚もそうだけど、恋愛とかもあまり考えてないです」
結婚以前に異性と付き合って遊ぼうとすれば、食事代、デート代、衣装代など出費が重なる。それが自分の生活を脅かしかねないと考えるのだ。
こうした意識は、統計にも表れている。図表8のように年収によって既婚率に違いが生じるのである。
ここからも、低所得の人たちが結婚をリスクと捉えていることがわかるだろう。
では、日本の低所得者にとって結婚は否定的なものでしかないのか。場合によっては、大きなメリットをもたらすこともある。
日本では富裕層と貧困層が同じ職場で働いているのが普通
途上国ではスラムの住人が、富裕層と出会って結婚をすることは皆無に等しい。そもそも階層によって住む世界がまったく異なるので、富裕層と貧困層が出会う機会がない。それに双方の持つ教養が小学校中退者と海外の大学への留学経験者くらい違うので、1つのことを同じレベルで理解したり、話したりすることが難しい。富裕層の貧困層に対する差別感情も露骨だ。
それと比べると、日本には富裕層と貧困層の間にそこまで大きな距離はないだろう。
出会いという点では、富裕層も貧困層も小中学校までは同じ公立校に通っている。高校や大学で別れても連絡を取り合っていたり、同窓会で再会したりすることはよくある。
社会に出てからも同じだ。大手企業とて有名大学を卒業した社員しかいないわけではなく、中卒や高卒の派遣社員がたくさん働いている。会社によっては、数人だけが正社員で、他の100人以上は非正規雇用といったこともある。つまり、同じ職場に年収1000万円以上の正社員と、200万円台の非正規雇用の従業員が席を並べているのが普通なのだ。