〈ご無礼もあるかもしれないが、本音で率直にお話ししたい。共和国に対する各国との関係や国際情勢には、想像を絶するものがあり、いても立ってもいられない思いで訪朝した〉
極秘で北朝鮮を訪れた飯島勲氏は、交渉の冒頭でこう切り出した。
2013年5月、内閣官房参与の飯島氏が北朝鮮で極秘交渉をした際の会談記録全文が、9月8日発売の「文藝春秋」2023年10月号、および「文藝春秋 電子版」(9月7日公開)に掲載される。「横田めぐみさん奪還交渉記録」と題された会談記録は40ページに及ぶ詳細なもの。北朝鮮最高幹部とのやりとりが一言一句に至るまで明らかになるのは前代未聞のことだ。
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独自ルートで極秘訪朝を北朝鮮側に打診
当時の訪朝は飯島氏にとって、「小泉訪朝」(2002年、2004年)に続いて3回目。小泉訪朝では金正日総書記が拉致を認めて謝罪し、蓮池薫さんら5人の拉致被害者が帰国したものの、横田めぐみさんを含む8人はすでに死亡したと伝えられた。
横田めぐみさんを巡っては北朝鮮からもたらされた遺骨から別人のDNAが検出されるなど、拉致問題は根本的な解決から程遠い状態のまま協議が途絶えていた。
2012年の第2次安倍政権発足で内閣官房参与に就任した飯島氏は、膠着していた拉致問題を解決すべく、独自ルートで極秘訪朝を北朝鮮側に打診。安倍晋三首相と菅義偉官房長官に直談判して、訪朝許可を取り付けた。
横田めぐみさんの名前を出すたび、北朝鮮側は辟易した表情
会談相手には、思わぬ大物が現れた。北朝鮮ナンバー2の金永南最高人民会議常任委員会委員長を筆頭に、金永日朝鮮労働党中央委員会書記、宋日昊朝日国交正常化交渉担当大使の3人。交渉は合計で7時間10分にも及んだ。
交渉の席で飯島氏が繰り返し訴えたのは拉致問題の解決だ。とりわけ「最大の問題」だと北朝鮮側に追及したのは、横田めぐみさんの件だった。
〈13歳のめぐみさんがなぜ拉致されたのか納得できない。(金正日)国防委員長は調査すると言われたが、根本的に理解できない〉(飯島参与)
横田めぐみさんの名前を出すたびに、宋大使など北朝鮮側が辟易した表情を浮かべていたことが記録からは窺える。