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「いままさに日本で観られるべき映画」『オッペンハイマー』を観た東浩紀氏が語る“米国リベラリズム”の強さ

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 日本国内での公開が未定となっているクリストファー・ノーラン監督の最新作『オッペンハイマー』を、いち早くアメリカで鑑賞したという批評家の東浩紀氏。東氏は9月8日(金)発売の月刊「文藝春秋」10月号のインタビューに答え、「関係者の方にはぜひ勇気を出して日本公開を検討してほしい」などと述べた。同作は米国では7月に公開されている。

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原爆投下を正当化する価値観に寄り添う物語ではない

 同作は「原爆の父」と呼ばれた米国の理論物理学者、ロバート・オッペンハイマーが、第二次世界大戦末期、原爆開発の「マンハッタン計画」を指揮した経緯や、ニューメキシコでの試作核弾頭の臨界実験「トリニティ」の様子などを描いている。主演はキリアン・マーフィーで、マット・デイモン、ロバート・ダウニー・ジュニアら大物俳優が脇を固める。興行収入は全世界ですでに5億ドル(約710億円)を突破し、来年のアカデミー賞との呼び声も高い。

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「原爆の父」ロバート・オッペンハイマー 🄫時事通信社

 東氏は8月、取材のために滞在した米ワシントンDCで同作を鑑賞。このように感想を述べている。

「まず『オッペンハイマー』はとてもいい作品でした。ノーラン監督作品の中でも素晴らしい出来だと思います。『インターステラー』や『インセプション』と同じくらい、心に響きました」

「強調しておきたいのは『オッペンハイマー』という作品そのものは明確に“反戦・反核”だということです。オッペンハイマーを天才科学者として称賛しているわけでもなく、米国で根強い『日本の降伏を早め、多くの米兵の命を救った』という、原爆投下を正当化する価値観に寄り添う物語でもありません」

米国では7月に公開された 🄫時事通信社

核抑止が問題になっているいま、まさに日本で観られるべき映画

 では、なぜ日本で公開されないのか。東氏はこうも述べた。

「SNSでの『バーベンハイマー騒動』がとても悪い印象を与えました。『オッペンハイマー』は北米では、着せ替え人形を実写化したコメディ映画『バービー』と同時公開でした。それゆえ米国のネットでは、二つの作品の名前を組み合わせた『バーベンハイマー』という造語が生まれ、バービーとキノコ雲を組み合わせたファンアートが持てはやされ、拡散したのです。それが日本で不必要な反感を買い、状況を悪くしてしまった」