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 ジャック・マー(馬雲)が創業し孫正義が出資した中国のEC大手、アリババ・ドット・コムは1が4つ並ぶ11月11日の「独身の日」に、大安売りのセールを始めた。

 日本を抜きGDPで世界第2位に躍り出た中国大衆の購買力は凄まじく、独身の日はアメリカでクリスマスセールの初日に当たる11月第4金曜日、「ブラック・フライデー」を抜いて「世界でいちばんものが売れる日」になった。

「うちもやるぞ。お前、考えろ。来年の1月。とりあず1日100億円な」

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「いや1月ってのは、ちょっと……」

「とりあず1日100億円な」 ©文藝春秋

「いつならできる?」と迫る三木谷の圧力に負け、矢澤は「じゃあ3月」とつい答えてしまった。

1日で100億円を集めるための秘策

 楽天市場で空前のヒットとなった「ビリーズブートキャンプ」の売り上げが1ヵ月で1億円であることを考えれば、1日100億円がいかに途方もない数字であるかがわかるだろう。

 このときの矢澤は一介のカテゴリー・マネージャーにすぎない。「1日に100億円売ろう」と言ってもまわりは「お前が勝手に社長と約束しただけだろ」と動いてくれない。当時の楽天市場の1日の最高売り上げは50億円である。

「だいたい、1日100億円なんて、できるわけないだろ」

 周囲の冷たい視線を浴びながら、矢澤は楽天市場の全国の有力店舗に足を運び、「目玉商品を出してください」「半額セールに協力してください」と頭を下げて回った。当時、楽天が本社を構える品川シーサイドのビルに1000人の店舗関係者を集め、お揃いのTシャツを配った。胸には「この日、日本の景気が動く」の文字。矢澤が音頭を取り「えい、えい、おー!」と気勢を上げた。

 1日100億円を達成するため、矢澤は三木谷に一つだけ頼みごとをした。

「テレビ・コマーシャルを使わせてください」

 前職のNOVAも爆発的に顧客が増えたのは、「いっぱい聞けて、いっぱいしゃべれる」の歌に乗って踊る「NOVAうさぎ」のテレビCMがきっかけだった。三木谷は「広告もネットの時代。テレビCMは時代遅れ」と考えていたが、矢澤は「多くの人にリーチする力はテレビCMのほうが上」であることを経験で知っていた。