楽天カードマンや楽天モバイルの米倉涼子さんなど、見る人の心に残る「印象的なCM」を発信しつづける楽天グループ。ところが、代表の三木谷浩史氏はかつて「広告もネットの時代。テレビCMは時代遅れ」と思っていたことも……。
そんな三木谷氏の心を変えた、楽天グループの超重要人物とは一体? ノンフィクション作家の大西康之氏の新刊『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』(小学館)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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楽天モバイル新社長は「駅前留学」の営業マン
「楽天モバイルは次のステップに進む」
三木谷がそう宣言したのが、2022年3月30日付で発令された楽天モバイルのトップ人事である。会長兼CEOだった三木谷が会長に退き、副社長のタレック・アミンがCEO、同じく副社長の矢澤俊介が社長に就任した。アミン49歳、矢澤41歳。40代のツートップである。
完全仮想化の立役者で、世界の通信業界に顔が効くアミンのCEO就任は分かる。しかしなぜ「たたき上げ」の矢澤が社長なのか。そう尋ねると、三木谷は「当たり前だろ」という表情でこう言った。
「あいつは楽天流の体現者だから」
三木谷が言う「楽天流」とは、大学の体育会さながらの「身体性」を指す。その典型が、週に1度、全スタッフが行うデスクまわりの掃除だ。三木谷以下、役員・社員の全員が、自分の机やイスの脚まで、雑巾できれいに拭く。
三木谷は楽天グループが事業を通じて実現しようとしている価値観を「ブランド・コンセプト」と称して5つの四文字熟語で表現している。
「大義名分」
「品性高潔」
「用意周到」
「信念不抜」
この4つを三木谷の父・良一が息子に授け、三木谷がそこに「一致団結」を加えた。ネット企業らしからぬ古めかしい標語こそ、三木谷という経営者が持つもうひとつの特性を象徴している。
三木谷はデータに基づき、ロジックで経営判断を下す。しかし、学生時代、一橋大学テニス部主将として弱小チームを率い、その後就職した興銀(日本興業銀行、現・みずほ銀行)の9年間、実務に携わった三木谷は、大きな判断を実現するのはひとつひとつの小さな行動の積み重ねであることを知っている。
だから「頭でっかちにならず、体を動かせ」と社員に説き、自ら雑巾を持って社員と同じ作業をする。グーグル、アマゾンといったシリコンバレーのテック・ジャイアントを思わせる二子玉川の洒落たオフィスで、全社員が腰をかがめて雑巾掛けをする様子は、楽天の企業文化が米欧と日本のハイブリッドであることを示している。
三木谷は人事でも「身体性」を大切にする。その象徴が矢澤俊介だ。長身痩躯で色白の矢澤は、目から鼻に抜けるようなタイプではなく、まわりを安心させるほんわかした雰囲気を持つ。仕事になると、理屈を並べる前にとにかく体を動かす。