「私は、苦しみが原点なのです」と語るイーロン・マスク。いじめ、虐待などを受けたその壮絶な半生を、公式伝記『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン著、井口耕二訳)にて明かしている。

 大人になった今でも、暗いところに入ると、子ども時代に遊び場でいじめられていた恐怖がよみがえってくるというマスク。そんななか、“遊び場”を我がものとするチャンスが巡ってきた。その“遊び場”とは、ツイッターだった——。

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 じつは2006年のサービス開始直後から、ツイッターを使いはじめていたというイーロン・マスク。けれども、

「スターバックスでこんなラテ飲んでます〜みたいなツイートばかりで飽きた」

 と、アカウントを削除してしまう。だが、世間の人々と直接やり取りができると友だちに説得され、2011年に再開。それから10年、“やらかし発言”で、たびたび物議を醸しながらも1万9000ツイートもしてきた。

イーロン・マスク氏 ©時事通信社

「次のレベルのゲームがしたい。くつろぐのは不得意なんですよ」

 マスクに密着してきた伝記作家のウォルター・アイザックソンはこう分析する。

“マスクにとってツイッターは理想的な遊び場だ。理想的すぎるかもしれない。前後の見境なくつけあがり好き勝手を言い放つタイプ、いわば火の玉小僧が勝つ場所なのだ。いろいろな意味で校庭みたいな場所であり、いじめや中傷もある。ただし、頭の回転が速ければフォロワーがたくさんつく。(中略)それが世界で一番の金持ちで頭の回転も一番速いとなれば、子ども時代と異なり、その校庭の王となることもできるだろう。”

 2022年4月のマスクは、順調過ぎるほどだった。テスラ(電気自動車)の時価総額は、1兆ドル。スペースX(宇宙開発)の時価総額は、1000億ドル。しかし、勝ったのにやめられない“ビデオゲームマニア症”を発症し、こう話していた。

「次のレベルのゲームがしたい。くつろぐのは不得意なんですよ」

 成功していると不安になり、嵐を求めてしまうタイプなのだ。それに先立つ同年1月には、運命のいたずらか、株の売却で100億ドルほどがマスクの手元に残っていた。

「そのまま銀行に放置するのもなんですしね。だから、自分が好きな製品はどれだろうと考えてみたんです。いや、もう、答えはひとつしかありません。ツイッターです」

 そして、ひそかにツイッターの株を買い集めていたのだ。