謎のシール「連絡まつ村」
背筋 実際の研究では、小説のような不可解な事態は起きなかったですね。協力してくれた方の中で、1人だけ「実験中に霊を見た」と言っていたくらい。
――では、呪いのシールは?
背筋 小説の中では、不気味な絵の描かれた謎のシールが、「近畿地方のある場所」近隣で大量に貼られている、というエピソードになっています。そのシールには、至るところで見かけるわりには貼っている人の姿を誰も見たことがない、興味本位でシールに関わると不幸が訪れるといういわれがある、といった内容です。
あれは「連絡まつ村」と言われる、2009年頃から実際に大阪府内で見かけるようになった謎のシールをモチーフにしているんです。あるおじいさんの写真と一緒に「元気ですか 連絡待つ」や「連絡まつ村」といった文言が印刷されたものです。
私は以前関西に住んでいて、当時の職場の近くで見かけたことがあります。昼休みになると同僚と一緒に、「連絡まつ村」を探す遊びをしていたこともありますね。
――小説内にも、仕事の外回り中に、まるで宝探しのように謎のシールを探すセールスレディの話がありましたよね。
背筋 そうそう。実際に私がしていたことなんです。中には、見つけたシールの写真を集めてブログやSNSに記録したり、「連絡まつ村マップ」を作ったりするほど熱狂的なファンもいます。
シールの男性は明らかに年齢を重ねていて…
――小説と同じですね……。
背筋 小説と同様に不思議なのが、そのシールを貼っている人の目撃情報を聞いたことがないんです。もう10年以上も大量に貼り続けられているのに。それに貼られている場所も変なんですよね。公衆トイレの便座の裏とか、電柱のすごく下、もしくはすごく上のほうとかにも貼られているそうです。「連絡待つ」と書いているわりには、電話番号や住所も一切書いていないし、貼っている場所的にも見つけてもらうつもりがなさそうというか。
それに、印刷されている男性はすべて同じ人なのですが、シールによって服装や表情が異なります。また、10年前に貼られ始めた頃よりも、最近貼られたシールのほうが明らかに年齢を重ねていて。同じシールを大量生産しているのではなく、定期的に作り直しているってことですよね。
誰がどんな意図でシールを作って貼っているのか、まったく分からない。それがすごく不気味で、興味を掻き立てられるんです。
――小説では、主人公たちが謎を解明しようと奔走しますが、背筋さん自身は神社で見かけた男性や、「連絡まつ村」のシールの“正体”を確かめようとは思わなかったのですか?
背筋 現実世界で不思議なものに相対すると、それ以上何もできないんです。探る術がなく、「あれは何だったんだろう」ってモヤモヤだけが残るというか。ある意味、そのモヤモヤを解消するために、自分や友人の体験をもとにして創作しているのかもしれません。